つい先日、『映画秘宝』や『歴史新書y』シリーズの発行などで有名な出版社の洋泉社が、親会社の宝島社に吸収される形で解散すると報道されました。
私も普段から本を手に取ることが多い出版社であり、第一報を知ったときは…。
また、洋泉社解散の報よりも以前に、ツイッターの読書好き間で「中古本を買うことは是か非か」という論争が勃発し、それに反応した当サイトのツイートがちょっとバズった、という一件もありました。
いま、ツイッターの読書好き界隈で「本好きが中古で本を買うことは是か非か」という議論が盛んなようです
個人的な意見ですが、「合法ならどんな手段であれ、本が読まれることは良しとするべき」ではないかと
何より読書好きが警戒しなければならないのは、「本が読まれないこと」だと思いますから
— 古典のいぶき (@koten_ibuki) December 8, 2019
皆様からも多数のご意見をお寄せいただいたので、この「洋泉社解散」というタイミングを機に、「中古本購入の是非」を検討してみたいと思います。
「出版不況」を裏付ける各種データ
まず、「中古本を買うことは悪か」という議論が浮上してきた前提には「新品の本が売れず、出版業界が衰退の一途をたどっている」という事実があります。
つまるところ「中古本を買うことが、出版業界にとってはマイナスなのではないか」という読書家の考えから出発しているのです。
皆さんも「出版業界は不況、斜陽である」ということは十分にご存じだと思いますが、やはり議論を検証する前にはしっかりとしたデータが必要。
そこで、この項では出版業界の現状を示す各種データを示していきます。
出版業界全体の売上高は減少続き
まず、そもそも「出版業界全体がどれほど不況なのか」ということを、もっとも手っ取り早く知ることができる「出版社、出版取次業、書店経営全体の売上高」を見ていきましょう。
2019年に発表された「帝国データバンク」の統計によると、3つすべての分野で売上高は前年割れの状態にあり、加えてやはりすべての分野で近十年における減少幅が10%超えを記録するなど、「出版業界は長期的に衰退している」というのは間違いなさそうです。
ただし、J-CASTの記事によれば「全体の売り上げが減少しているのは間違いないが、減少幅自体は縮小傾向にある」ということなので、ある程度減少に歯止めがかかった、とみることもできます。
新品本の売り上げも、文庫・漫画などジャンルを問わず減少中
次に、「長期的に衰退している」と言われている出版業界における新品本の売り上げがどれほど低迷しているか、それを見ていきましょう。
「日本出版協会」の統計(1995年~2017年)をざっくりと説明すると、
書籍…長期減少傾向だが雑誌に比べると減少幅は相対的に緩やか
定期発行誌…20年連続のマイナス、休刊数>創刊数
漫画…全体的に減少傾向で、コミック誌は21年連続売り上げ減
ムック…比較的堅調に推移していたが、2011年以降7年連続売り上げ減
文庫…特に売り上げ減少幅が著しく、既刊の落ち込みは「危機的状況」
と、端的に言って「新品本が全然売れていない」のが浮き彫りになっています。
出版社・書店の解散や閉店も目立っている
出版業界全体が苦境に陥っているということは、当然ながらそれを生業にしている企業も危機的状況に陥っているということです。
冒頭で示した洋泉社解散の一報は、ハッキリ言ってそれほど珍しいものでもありません。
2019年だけに限定しても創文社が2020年めどの解散を発表していますし、さらにさかのぼって見ていけば似たような例はいくらでも見つけることができます。
さらに、書店の閉店や破産も目立つようになり、やはり2019年だけでも
・大和書店が破産
・文教堂が債務超過により「事業再生ADR(裁判外紛争解決手続)」に着手
・蔦屋、三省堂、有隣堂などにも閉店店舗が出現
と、苦しい業界の実態が浮き彫りになってきます。
特に2019年は出版業の倒産が急増した年となったようで、「東京商工リサーチ」は今年度上半期の情勢を以下のようにまとめています。
沈静化していた「出版業」の倒産が急増している。2019年の「出版業」倒産は1月-8月累計で26件(前年同期比116.6%増、前年同期12件)に達し、2018年1年間の22件をすでに上回った。
(略)
2019年に出版業の倒産が急増した背景は、「出版不況」で雑誌に頼った流通システムが崩れ、「出版」、「取次」、「書店」が負の連鎖に嵌り、業界構造の改善が遅れたことが大きい。不採算の出版物の廃刊、休刊の決定の遅れだけでなく、逆に書籍点数を増やしてきた出版社もある。だが、売上増につながらず、印刷代や紙代の値上がりで赤字が拡大する悪循環に陥っている。
(略)
深刻な出版不況に打開策は見当たらない。抜本的な改善ができずに経営体力が疲弊した中小・零細規模の出版業者の倒産は、「出版は文化」の時代の終焉を示している。
…もはや、私が何かを言うまでもないでしょう。
ブックオフも苦境に陥っており、古本市場が活発なわけでもない
上記の内容から「出版業界が危機的状況にある」ということは、これでもかというほど痛切に感じていただけたのではないかと思います。
ここで、一度「中古本論争」の出発点に戻りましょう。
ツイッターをにぎわせた「中古本は悪」という主張の裏には「ブックオフなど古本屋が新品本が売れて関係者に入るはずだった利益を独り占めにしており、出版業界が衰退した」というような考えが根底にあるはずだ、と先に述べました。
この観点を立証するには、「新品本が売れなくなった原因は古本屋である」という事実を、客観的に明らかにしなければなりません。
ところが、古本市場に目を向けてみると、利益を独占しているはずの古本界の親玉・ブックオフが経営危機に陥っていたという事実が見えてきます。
2019年5月までブックオフグループは13カ月連続で売り上げを減らしており、各種ビジネス誌においても「ブックオフのビジネスモデルは限界を迎えている」とささやかれていました。
昨今は売り上げを伸ばし復活しているようですが、ビジネスジャーナルは「ブックオフの復活要因は、『本のブックオフ』から『何でもリユースのブックオフ』への転換である」と指摘しており、決して中古本市場が活気づいているわけではないのです。
この時点で、「出版業界の不況」を「中古本のせいだ」とする主張は、かなり無理があるといえるでしょう。
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