『名馬シルバー・ブレイズ号』のあらすじや感想、トリビアを解説!競走馬失踪の謎にホームズが迫る有名短編

イギリス文学
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みなさんは「ギャンブル」と聞いて何を思い浮かべますか?

パチンコ、カジノ、宝くじ、ラスベガスなどと並んで「競馬」をイメージする人が多いのではないでしょうか。

今回紹介するのはそんな競馬にまつわる、不可思議な殺人&失踪事件の謎に迫る『名馬シルバー・ブレイズ号』です。シャーロック・ホームズが活躍したヴィクトリア朝でも競馬は人気の娯楽でした。

前半はあらすじとトリビアをご紹介し、後半はネタバレありで考察していきます。

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名馬シルバー・ブレイズ号の作品紹介

作者 アーサー・コナン・ドイル
執筆年 1892年
執筆国 イギリス
言語 英語
ジャンル ミステリ
読解難度 読みやすい
電子書籍化
青空文庫 ×
Kindle Unlimited読み放題 ×

ホームズ作品の中でも、独特の演出が光る本作。ホームズとワトスンがロンドンから現場に出張したり、現場検証のために2人がムーアを歩き回ったりと、場面転換が多くテンポもよい作品です。

名馬シルバー・ブレイズ号の簡単なあらすじ

ある日の朝食の席。ホームズがワトスンに、とある事件のためにダートムアのキングズ・パイランドに赴くことになると告げます。

その事件とは当時世間を賑わせていた、競走馬シルバー・ブレイズ号の失踪と調教師ジョン・ストレーカー殺害事件でした。夜中に厩舎に向かったはずのストレーカーが、ムーアの窪地で遺体となって発見されます。

そして厩舎からは週末の〈ウェセックス・カップ〉に出場する本命馬、シルバー・ブレイズ号がいなくなっていたのです。

新聞で事件の動向を読み、ホームズの動きを気にしていたワトスンは、すかさず同行を申し出ます。実は事件はすぐに解決するだろうと楽観視していたホームズは、数日前に来ていた、馬主と警察からの捜査の依頼をあえて放置していたのでした。

予想外に捜査が難航していることに、自分の判断の誤りを認めたホームズ。道中のどかな車窓の景色を楽しむワトスンを横目に、情報の収集と整理を行います。

現場での捜査からホームズがたどり着いた犯人とシルバー・ブレイズ号の行方とは?他の事件とは一味違う、ホームズの想像力が光る人気作です!

こんな人に読んでほしい

・動物が登場するホームズ作品を読みたい
・ムーアが舞台の作品が好き
・テンポのよい短編ミステリを読みたい

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名馬シルバー・ブレイズ号の解説・トリビア

独特の荒涼とした風景が広がるムーアが舞台

今回の事件の舞台はダートムア。イングランドのデボン州南部にあり、その名の通り広大なムーア(荒野・湿原)が広がる地域です。ムーアはしばしば文学作品の舞台となっており、バーネットの『秘密の花園』、エミリー・ブロンテの『嵐が丘』なども有名ですね。

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本作では、このムーアを歩き回ってホームズとワトスンが調査を進めていきます。ホームズシリーズでムーアと言えば、長編3作目の『バスカヴィル家の犬』が有名なので、ムーアと聞いてこちらを思い浮かべる人も多いかもしれません。

読み比べてみるとわかるのですが、今回のムーアと『バスカヴィル家の犬』のムーアとでは印象がだいぶ異なっています。『バスカヴィル家の犬』のムーアは、「おどろおどろしく不気味な場所」として描かれていますが、本作では「自然の広がる空気の良い田舎」として登場。作中のホームズのセリフや、ワトスンがダートムアに向かう列車の中で、車窓の風景を楽しんでいるシーンからもそれが読み取れます。

現地に行ったことがないのでわかりませんが、見る側の心の状態などでムーアの印象も大きく変わるのかなと想像しました。実際に現地に足を運んで、自分がどう感じるのか確かめてみたくなりますね。

作者のコナン・ドイルはムーアという舞台の二面性を作品ごとに巧みに使い分け、それぞれに魅力的な舞台に仕上げています。ぜひ2つの作品を読み比べてその違いを楽しんでみてください。

ヴィクトリア朝の競馬人気を物語る作品

本作では「殺人+人気競走馬の失踪事件」を扱うホームズ。多くの新聞でも取り上げられている様子から、事件に対する世間の注目ぶりが想像できます。冒頭でも少し触れましたが、「競馬」はヴィクトリア朝時代にも大変人気のあるスポーツでした。上流・中流・労働者階級まで、分け隔てなく楽しめる数少ない娯楽の1つだったのです。

ホームズ短編の『青いガーネット』で、「ピンク・アン」という新聞の名前がさりげなく登場していますが、これは「スポーティング・タイムズ」という当時の競馬新聞の通称です。「ピンク・アン」と書けば意味が通じるほど、当時の人々の生活に競馬が浸透していたことがわかります。

作者のコナン・ドイル自身は競馬をあまり好まなかったそうですが、作中にはホームズが競馬を楽しんでいたことをうかがわせる描写が登場。ただし、ギャンブラーというほどではなく、どちらかというとワトスンの方がその気質が強かったことが、別の短編『ショスコム荘』で明らかにされています。

本作に登場する〈ウェセックス・カップ〉は架空のものですが、「シルバー・ブレイズ・ウェセックス・カップ・レース」という作品にちなんだレースが実際に開催されているそうで、競馬のギャンブル以上の文化的な影響力も感じられますね。

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ヴィクトリア朝の人気メニューの1つ「カレー」に見る食文化

ヴィクトリア朝当時の食文化を楽しむことができるのも、ホームズ作品の魅力の1つ。今回のポイントはなんといっても「マトンのカレー煮」です。これはホームズが食べるわけではなく、事件の現場である厩舎の夕食として登場します。

カレーは現在イギリスの国民食とも言われ、確固たる地位を確立している料理です。イギリスがインドを統治していた大英帝国時代。18世紀末頃にインドから帰国した東インド会社の人々がインド暮らしの名残から、好んでカレーを食べていました。その後数々の料理書にもレシピが掲載されるようになり、上流階級から一般市民の食卓にまで浸透していきます。

インド文化に強い関心を持っていたヴィクトリア女王も、インド人コックを雇ってカレーを楽しんでいたそうです。イギリス国内には、大衆向けから富裕層向けまで、インド料理やカレーを出す店ができ、中には現在まで続いているものもあります。

日本人がカレーと聞いて思い浮かべるのは「カレーライス」のとろりとしたカレーですが、ヴィクトリア朝当時のカレーは、カレー味の炒め物に近いものだったようです。当時のレシピを研究した書籍なども出ていますので、興味のある方はぜひ再現して味わってみましょう!

重要な役割を担う物言わぬ証人!ホームズ作品に登場する動物たち

タイトルからもわかる通り、本作は動物が主役となる物語です。ホームズ作品で動物と言えば長編『バスカヴィル家の犬』ですが、短編作品に登場する「動物」たちも、各エピソードで重要な役割を担っています。

『四つの署名』の追跡犬ポンピーや『ショスコム荘』の競走馬ショスコム・プリンス、そして『青いガーネット』のガチョウなどがその代表例でしょう。

今回の事件では競走馬たちだけでなく、羊や犬などのさまざまな動物が登場します。物言わぬ動物たちがどんな役割を果たすのか、そのあたりにも注目して読み進めてみてください。

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