『踊る人形』のあらすじや感想、トリビアを解説(ネタバレ有)シリーズでは珍しい「暗号もの」の傑作!

踊る人形 アイキャッチ イギリス文学
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ミステリといえば、不可思議な記号やメッセージを読み解く「暗号もの」が人気です。

ホームズシリーズにも言わずと知れた暗号ものがあり、人気知名度ともに高いその作品が、今回ご紹介する『踊る人形』(短編集『シャーロック・ホームズの帰還』収録)です。

ホームズの並外れた知性と、登場人物たちの情熱的な愛が、短編の中にぎゅっと凝縮されています。

前半はあらすじとトリビアをご紹介し、後半はネタバレありで考察していきます。

暗号と愛の短編をぜひお楽しみください。

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踊る人形の作品情報

作者 アーサー・コナン・ドイル
執筆年 1903年
執筆国 イギリス
言語 英語
ジャンル ミステリ
読解難度 読みやすい
電子書籍化
青空文庫 ×
Kindle Unlimited読み放題 ×

「暗号もの」というとちょっと難しそうに思えるかもしれませんが、手描きの暗号が書き込まれたちょっと面白い構成になっていて、読みやすいと思います。

ストーリーにドラマ性もあり、読み応えもある短編作品です。

踊る人形の簡単なあらすじ

物語はベーカー街221Bからスタートします。いつものように鋭い推理でワトスンを驚かせたホームズが、ふと一枚の紙きれを取り出します。そこには子供の落書きと思しき絵が描かれていました。

小さな人形たちが一列に並んで踊っているかのような、その不思議な絵を送ってきたのは、ノーフォーク州リドリング・ソープ荘園の主、ヒルトン・キュービット。彼は、アメリカ人の妻エルシーが、その踊る人形たちを見て卒倒してしまったことから、ホームズの元に相談に訪れます。

ホームズは、暗号を解くための情報を集めるため、依頼人に踊る人形のメッセージを集めるよう指示しますが、物語は予想もしない展開を見せていきます。

果たして踊る人形が伝えるメッセージとは?作者コナン・ドイルが、好きな短編12編の中の第3位に選んだという、暗号もの古典ミステリの代表作です。

こんな人に読んでほしい

・ホームズの暗号ものを読みたい
・なぞなぞや暗号が好き
・ドラマ性のある古典ミステリを読みたい
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踊る人形の舞台やモデル、時代背景を解説!

作者ドイルが作品の着想を得た、メインの舞台・ノーフォーク州

ロンドンの北東に位置するノーフォーク州。その東部の海岸にある町ノース・ウォルシャム近くのリドリング・ソープ荘園が、今回の依頼人ヒルトン・キュービット氏の住まいです。

ノーフォーク 海岸
ノーフォークの海岸(出典:Wikipedia)

コナン・ドイルが『踊る人形』の着想を得て、その一部を書いたと言われているのが、まさにノース・ウォルシャムの近く・ヘイズバラにある、ヒル・ハウス・ホテルでした。

ドイルは、このホテルから当時のストランドの編集者に宛てて手紙を出しており、手紙の中で「残虐だが感動させる」と本作について触れています。

作中のリドリング・ソープ荘園の名前は、ノーフォークに実在するリドリントンとエディンソープという2つの村からとられたと言われていて、依頼人のキュービットという名前も、ヒル・ハウス・ホテルのオーナーの名前からとったと考えられています。

意外と珍しいホームズの暗号もの作品

ホームズ作品では、様々なタイプの事件を扱っていますが、意外にも暗号ものはそれほど多くはありません。

『踊る人形』以外では、ホームズの学生時代のエピソードとして有名な『グロリア・スコット号』(『シャーロック・ホームズの思い出』収録)や『マスグレイヴ家の儀式書』(同短編集収録)などが挙げられますが、この2つに登場するのは英文を解読するタイプの暗号です。

そもそも文字ではないもので書かれた文章を読み解くというのは、『踊る人形』ならではの面白さでしょう。

『踊る人形』の暗号解読術は、エドガー・アラン・ポーの『黄金虫』にヒントを得ていると言われています。

エドガー・アラン・ポー 写真エドガー・アラン・ポー(出典:Wikipedia)

作中で暗号解読術を披露するシーンで、ホームズがルグランと同じようなセリフを言っていることからも、そのつながりがうかがえますね。

ホームズが活躍した19世紀の終わりには、本作に登場するような暗号や隠語が、旅人や秘密結社などの間でよく使われていました。時代の変遷とともに解読が困難な暗号が次々に開発され、中には20世紀まで軍隊で使用されていたものもあったといいます。

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ワトスンとのやり取りは健在。時代を感じさせるキーワードにも注目!

ホームズシリーズでおなじみの冒頭の一コマは、本作でも健在です。魔法のようにすべてを言い当てても、「なんだそんなことか」と言われることに辟易しているホームズがワトスンに念書を書かせようとするなど、そのほのぼのしたやり取りには心が和みます。

いろいろあって、一度は同居を解消したホームズとワトスンでしたが、本作でのやり取りを見ていると、この作品では同居を再開しているようです。

ワトスンが検討していた南アフリカの金鉱への投資ですが、これもまた時代を感じさせるポイントです。

1880年代から始まった、ヨーロッパ列強によるアフリカ分割。当時イギリスは1800年代前半に手に入れたアフリカ南端の領地を拡大し、南アフリカ(現在の南アフリカ共和国)を領地としていました。


南アフリカの首都・ヨハネスブルク

『踊る人形』事件が起こった1898年ごろは、まさにイギリスがエジプトと南アフリカを結ぶ形で領地を拡大する大陸縦断政策をとっていたころだったのです。また、作品発表の前年に、作者ドイル自身が南アフリカの鉱山関連の投資を行っていたこともあり、さりげなく自伝的要素が盛り込まれているとの指摘もあります。

※作品の感想、考察は次のページへ!

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