『青いガーネット』のあらすじや感想、トリビアを解説!クリスマスシーズンにぴったりのホームズ短編

イギリス文学
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年に一度のクリスマス。クリスマスが近づくと、宗教などに関係なく、どこか特別な気分になってきます。

そんなクリスマスですが、今年はクリスマスを題材にしたミステリを読んで過ごしませんか?

今回はホームズシリーズの中でも、クリスマスシーズンに起こった、人間の欲望を刺激する不思議な宝石を巡る事件を取り上げた短編『青いガーネット』をご紹介します。

前半はあらすじトリビアをご紹介し、後半はネタバレありで考察していきます。

ホームズ、ワトスンと共に、一風変わった追跡劇を楽しみましょう!

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青いガーネットの作品紹介

作者 アーサー・コナン・ドイル
執筆年 1892年
執筆国 イギリス
言語 英語
ジャンル ミステリ
読解難度 読みやすい
電子書籍化
青空文庫 ×
Kindle Unlimited読み放題

クリスマスのお話ということで、ホームズシリーズの中でも温かみを感じるストーリーになっている本作。

扱うのも殺人事件ではないので、残酷な描写もなく、普段はミステリを読まないという人でも読みやすい作品だと思います。ヴィクトリア朝のクリスマスシーズンを体験できる、どこかほのぼのした空気の漂う短編です。

青いガーネットの簡単なあらすじ

クリスマス当日。ホームズの元に、使丁(コミッショネア)のピータースンがガチョウと帽子の落し物を持ち込みます。それから2日は特に何の進展もなく、ベイカー街を訪ねてきたワトスンと、帽子をネタにいつものように推理を楽しむホームズ。

そこにガチョウを持ち帰ったピータースンによって、驚くべきニュースがもたらされます。なんとガチョウの餌袋(えぶくろ)から青く輝く宝石が転がり出てきたというのです。

その宝石は5日前に、ホテル・コスモポリタンでモーカー伯爵夫人の部屋から盗まれた「青いガーネット」でした。

若い配管工ジョン・ホーナーが犯人として捕らえられましたが、宝石自体は見つからず、なんと一千ポンドもの懸賞金がかけられていたのです。その宝石がガチョウの中から見つかったことから、真犯人を探すことにしたホームズとワトスン。

帽子の持ち主であるヘンリー・ベイカーなる人物を探すことから捜査を始めていきますが……。

大勢の人が暮らす大都会ロンドンで、ガチョウと帽子だけを手掛かりにホームズが真犯人に迫ります。年末の極寒のロンドンを舞台にした、クリスマスシーズンに読みたくなるホームズ短編です。

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こんな人に読んでほしい

・残酷な描写はちょっと苦手
・クリスマスの雰囲気を感じられるミステリが読みたい
・ヴィクトリア朝ロンドンの市井の人々の暮らしに興味がある

青いガーネットのタイトルやヴィクトリア期の文化を解説!

ガーネット?柘榴石?さまざまに訳される「青い宝石」

本作の原文タイトルは”The Blue Carbuncle。Carbuncle(カーバンクル)とは、丸型にカットされ磨き上げられたガーネットを指す宝石商の用語です。赤、白、黄、緑、茶、紫、黒などのガーネットは存在しますが、本来青いものはなく、作中でも「ふたつとない品」として紹介されています。

この宝石のために殺人や自殺、硫酸を浴びせた事件などが起こっている「いわくつき」の逸品。現在ワシントンのスミソニアン博物館に所蔵され、呪いの宝石としても知られるホープダイヤモンドの話をもとに、この宝石の設定が考えられたのではないかという意見もあります。

また、本作は『青いガーネット』『青い柘榴石』『青い紅玉』など、日本語訳が出版社によって分かれており、どのように訳せばよいかが1つの課題になっているそうです。ガーネットの日本語訳が柘榴石なので、この2つに関しては語感の好みというところでしょうか。

ホームズシリーズでは訳者によって、タイトルの翻訳が変わる作品がいくつかありますが、特に本作は翻訳でタイトルから受ける印象が大きく変わる作品の1つだと思います。最終的にいずれかの訳に統一されるのか、また違った翻訳が出てくるのか、興味深いところです。

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時代を感じさせるピータースンの職業「コミッショネア」

ホームズにガチョウと帽子の落し物を届け、ガチョウの餌袋から宝石を見つけるキーパーソンである、使丁(コミッショネア)のピータースン

彼の職業「コミッショネア」とは、「傷痍軍人組合員」のことで、日本語版のホームズ作品ではわかりやすく、「使丁」「便利屋」などと翻訳されています。

傷痍軍人組合はクリミア戦争で負傷し、兵士としては戦えなくなった人々を救済する組織で、組合員は守衛や配達人などとして勤め口を得ることができました。彼らは制服を着て働いており、ピータースンももちろんその一人。

そのことが今回の事件につながっていくのですが、それについては本編で確認してみてください。

ヴィクトリア紳士のマストアイテム「帽子」

ホームズが事件に首を突っ込むきっかけとなる2つの落し物。そのうちの1つで序盤の主役となるのが「帽子」です。

今回ヘンリー・ベイカー氏が落とした帽子は、古ぼけた山高帽(てっぺんが丸いフェルト製の帽子。ビリー・コックやボウラー・ハットなどとも呼ばれる)で、1850年代以降、おしゃれな紳士の帽子として流行し、一般的になっていったものでした。

山高帽 イラスト

ホームズは落とし物の帽子から、持ち主の特徴や暮らしぶりを推理してみせます。まだ顔を合わせたこともない相手のことでも、持ち物を見ればわかってしまうというのは、ホームズならではでしょう。

ただ、帽子がその人を示すというのは、当時としては一般的なことだったようで、帽子によって階級や収入、職業などをある程度示すことができました。

ヴィクトリア朝では、帽子は紳士の大切なアイテムで、どこに行くにも帽子をかぶるのが普通でした。作中で、山高帽を無くしたヘンリー・ベイカー氏が、自分でも似合わないと思うスコッチ帽(中央に丸房がついたウール地の青くて丸い扁平な帽子)をかぶっていますが、帽子をかぶらずに出かけることがいかに非常識なことであったかがわかる描写です。

ホームズシリーズの挿絵や映像化作品を見ても、ホームズやワトスンをはじめとする登場人物たちは、必ずといっていいほど帽子を着用しています。

また、目上の人や女性には帽子を取って挨拶するなどの習慣もあり、帽子は敬意を示すアイテムでもありました。それぞれの帽子やその所作に注目してみると、また違ったおもしろさがあるでしょう。

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「ガチョウ・クラブ」に見るヴィクトリア朝のパブ

今回の事件の重要なカギを握る「ガチョウ」

作中では、ガチョウの落とし主であるヘンリー・ベイカー氏がそのガチョウを手に入れた経緯が明かされます。

彼は毎週数ペンスずつお金を積み立てることで、クリスマスにガチョウがもらえるという「ガチョウ・クラブ」に参加しており、そのクラブは彼の行きつけのパブが主催するものでした。

イギリスでは現在でも、地元のパブが地域の社交場として機能しているそうですが、もちろんヴィクトリア朝でもそれは同じ。

ホームズシリーズでも、ホームズが調査で地元のパブを訪れて情報収集をするというシーンがたびたび登場しており、おそらく現代以上に地域の中心的な役割を担う場所だったと思われます。

パブと常連客とのつながりは密接なもので、パブ側が常連客へのサービスとして、実際に「ガチョウ・クラブ」「クリスマス・クラブ」などを主催していたという記録も残っているとのこと。家族や友人ともまた違うパブというコミュニティの温かみを感じられる部分です。

作中では、ヘンリー・ベイカー氏の暮らしぶりがホームズの推理によって明かされますが、彼にとっての行きつけのパブの存在の大きさを想像すると、胸にグッとくるものがあります。

※作品の感想、考察は次のページへ!

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