「ミステリの女王」アガサ・クリスティーの生涯や作風、おすすめ作品10選まとめ!

アガサ・クリスティー アイキャッチ 古典作家紹介
スポンサーリンク
スポンサーリンク

「海外ミステリに挑戦したい」「古典ミステリを読んだことがない」という人におすすめを聞かれたら、あなたは誰のどんな作品を挙げますか?

わたしなら、迷わずアガサ・クリスティーの作品を勧めます! 言わずと知れた「ミステリの女王」であるアガサ・クリスティー。50年余りの作家人生で、ミステリの歴史を動かす多くの名作を世に遺した偉大な作家です。

今回は、そんなアガサ・クリスティーの生涯と作品の特徴を解説し、これからクリスティー作品を手に取るという方におすすめの10作品を紹介したいと思います。

結末やトリックなどのネタバレはありませんので、その点は安心して読み進めてください。

スポンサーリンク

アガサ・クリスティーの生涯

作家の人生を知ることは、作家を身近に感じ、数多くの名作が生まれた秘密や作品に込められた思いを知る手掛かりとなります。

ここではアガサ・クリスティーの誕生から晩年まで、その生涯を振り返っていきたいと思います。

ミステリ作家としての基盤が形成された少女時代

アガサ・クリスティーは、1890年に財産家の父フレデリックと母クラリッサの3人目の子どもとして誕生しました。

アガサクリスティー 写真アガサ・クリスティー(出典:Wikipedia)

生まれた町はイングランドの南西部トーキイ。結婚するまでこの町に暮らしたクリスティーは、作品中で名前を変えてトーキイを登場させたりもしています。

姉と兄がいましたが年が離れていたこともあり、幼い頃には一人で遊ぶことも多かったよう。学校に通うべき年齢になっても両親の意向で学校には通わず、自宅で過ごしていました

アガサクリスティー 少女時代アガサ・クリスティーの少女時代(出典:Wikipedia)

それでも家にあるたくさんの本を読んだり、オリジナルの物語を頭の中で作り上げたりと、持ち前の創造力を発揮し、退屈することは全くなかったと言います。「学校」という型にはまらなかったからこそ、のちのミステリ作家の基礎となる能力が育まれたのかもしれません。

クリスティーがミステリ小説に出会ったきっかけは、11歳年の離れた姉のマージでした。クリスティーはマージに勧められ、コナン・ドイルのシャーロック・ホームズシリーズやガストン・ルルーの『黄色い部屋の秘密』などを読み込みます。

ミステリ小説にすっかり夢中になったアガサは、自分でもミステリ小説を書いてみたいという思いを強くします。しかしマージは「無理だ」と一蹴。このことで逆に「絶対に書く」という思いを強くしたとクリスティーの自伝に綴られています。

16歳になったころ、マージも通ったパリの寄宿学校に入学したクリスティー。初めて家を離れての集団生活の体験は印象深いものだったのでしょう。のちにミス・マープルシリーズの『魔術の殺人』に寄宿学校時代の経験をもとにした描写が登場しています。

この寄宿学校時代に音楽の才能を開花させたクリスティーは、一時期本気でプロを目指します。が、結果的にはあきらめてしまいます。この挫折は彼女にとっては辛いことだったと思いますが、のちのミステリ読みたちにとっては幸いだったと言えるでしょう。

結婚と第一次世界大戦を経てミステリ作家の道へ

音楽家の道をあきらめたクリスティーが、小説を書くきっかけは「インフルエンザ」でした。インフルエンザからの回復期に暇を持て余していた彼女に、母クラリッサが小説を書くことを勧めたのです。

その時期に書き上げた作品の一つ『孤独な神さま』は、ハヤカワクリスティー文庫の『マン島の黄金』に収録されています。

クリスティーの才能に気づいた母は、隣家に住む作家のイーデン・フィルポッツ(代表作『赤毛のレドメイン家』)に原稿を読んでもらいます。これ以降フィルポッツは、作品へのアドバイスをくれたり、自身のエージェントを紹介してくれたりと小説の師匠として影響を与える存在となりました。

第一次世界大戦がはじまった1914年、彼女の人生を大きく変える出来事が起こります。母の反対を押し切り、軍人のアーチボルド・クリスティーと結婚したのです。

家を出たクリスティーは、戦時中は篤志看護師として病院に勤務。そのうち2年間は薬局で助手をしながら薬剤師の資格を取るべく学びました。このときに得た薬の知識は、のちの作品作りに大いに役立てられています。

そして、勤務中の空いた時間を活かし、ついにミステリ小説の執筆に着手します。第一次大戦後の1920年、初の長編小説かつポアロシリーズの記念すべき一作目『スタイルズ荘の怪事件』でミステリ作家としてデビューを飾りました。ミステリ作家アガサ・クリスティーの誕生です。

スポンサーリンク

作家としての成功の影で苦しみも…

クリスティーは、ポアロシリーズの『ゴルフ場殺人事件』『アクロイド殺し』など、立て続けに話題作を発表。女流ミステリ作家として世間からの注目を集めます。同時に、私生活では子どもにも恵まれ、一見すると順風満帆の人生を送っていました。

しかしそうした成功の影で、このころ一人の女性としても作家としてもつらい時期を過ごしています。

『アクロイド殺し』を発表した1926年は、母親の死と、夫の浮気に苦しみます。幸いにもすぐに発見されましたが、精神的に不安定になったクリスティーは失踪事件も起こしました。

クリスティー 行方不明クリスティーの失踪を伝える当時の記事(出典:Wikipedia)

間もなく夫とは別居することになってしまいます。

作家として生計を立て、一人娘を育てていく決意を固めていたクリスティーでしたが、母の死後筆が思うように進まずスランプに陥っていました。

実際、この時期発表されたポアロシリーズの『ビッグ4』を読むと、それまでの作品との違いに驚かされると思います。

その後『青列車の秘密』の執筆に取り掛かるクリスティーでしたが、書くのが嫌でも作品を仕上げなくてはいけないプロの作家の厳しさに直面します。プロとしての自覚が芽生えたこの時期は、作家としての彼女にとって大きな転換期となりました。

再婚をキッカケに人気作を次々と発表した黄金期へ

1928年にアーチボルドと離婚したクリスティーは、1930年に14歳年下の考古学者マックス・マローワンと再婚します。

クリスティー マックス 写真クリスティーとマックス(出典:Wikipedia)

離婚後にアガサはオリエント急行などを使って中東の旅に出かけるのですが、1929年にとある遺跡の発掘現場でマックスと出会い意気投合。再婚後はマックスの発掘作業に同行し、仕事を手伝いながら小説を執筆していきます。

ポアロシリーズの代表作『オリエント急行の殺人』やミス・マープルシリーズ初の長編『牧師館の殺人』、謎めいた紳士ハーリ・クィンが主人公の短編集『謎のクィン氏』、探偵ものとは一味違うミステリとして人気の短編集『パーカー・パイン登場』など、人気キャラクターが活躍するシリーズを発表。

さらにノンシリーズの名作も次々に生み出し、絶頂期といわれる1939年にはあの『そして誰もいなくなった』を発表しています。

愛のある結婚生活によって精神的な安定を手に入れ、各地への旅によって自分の世界を広げていたこの時期は、のちにクリスティーの代名詞となる作品が数多く誕生した作家クリスティーの黄金期と言えるでしょう。

スポンサーリンク

80代まで活躍したミステリの女王は、最期まで作品を書き続けた

1930年代の勢いのままに、1940年代以降も順調に作品を生み出していくクリスティー。

当初メアリ・ウェストマコットという別名義で発表され、クリスティーファンにも人気の高いノンミステリ『春にして君を離れ』は、戦時下の情勢にありながら、たったの3日で書き上げた作品です。

また、ポアロシリーズの最終作『カーテン』(1975年発表)とマープルシリーズの最終作『スリーピングマーダー』(1976年発表)も第二次世界大戦中に書かれています。執筆されたのは日々空襲に見舞われていたロンドンで、この2作品はクリスティーに何かあったときのための家族への遺産として書かれたものでした。

なんとか戦争を生き延びたクリスティーは、戦後もシリーズの続編など、時代の変化を取り入れながら作品を展開していきます。

1976年に85歳で亡くなるまで精力的に執筆活動を続け、生涯に発表した作品は、別名義のものも含めて200以上。今も世界中で読み継がれ研究されるクリスティーの作品たちはイギリスの誇りとなり、その功績をたたえて生前に大英帝国勲章(デイム)も授与されました。

クリスティー 晩年晩年のクリスティー(出典:Wikipedia)

人生の浮き沈みに翻弄されながらも、書くことに飽くことなく、書くことで身を立てることができた、幸福な作家の一人だったクリスティー。今もなお「ミステリの女王」として君臨し、世界中の読者に愛され続けています。

アガサ・クリスティーの作風や作品の特徴

アガサ・クリスティーの作品は、そのボリュームに関わらず読みやすく、また何度も読み返したくなる魅力が備わっています。ここではわたしが考えるクリスティー作品の特徴を解説し、後世に影響を与えた彼女の作品の魅力を紐解きます。

ありとあらゆるミステリのジャンルを楽しめる多彩なラインナップ

「とにかく何かミステリが読みたい!」と思ったら、クリスティー作品はおすすめです。というのもクリスティー作品を端から読んでいくだけで、ありとあらゆるジャンルのミステリに触れることができるから。

館、叙述、トラベル、本格、サスペンス、安楽椅子、コージーなどなど。ミステリ小説には多くのジャンルが存在し、それぞれのジャンルで人気作家を輩出しています。

実はクリスティー作品では、本格ミステリならポアロシリーズ、コージーミステリや安楽椅子探偵ものならミス・マープルといった具合に、こうした多彩なジャンルのミステリをまとめて楽しむことができるのです。

日本でも人気の高い館を舞台にした「館ミステリ」や、列車や船が舞台の「トラベルミステリ」、叙述トリックで見せる「叙述ミステリ」など、同じシリーズの中でもさまざまなテイストの作品を書いていますので、お気に入りのシリーズ作品を制覇するだけでもその幅の広さを実感できるでしょう。

クリスティーは30代から80代まで長期間作家として活動し、その著作は長編や短編などを合わせて200を超えます。圧倒的な作品数もさることながら、その内容の多彩さも驚異的。そのため「クリスティーはこういう作家」と一言で説明するのがとても難しい作家です。

現在国内外で活躍しているミステリ作家の作品にも、クリスティー作品に影響を受けたと思われる作品やオマージュ作品として発表されているものが多数あり、幅広いミステリのジャンルに挑戦した彼女が後世に与えた影響の大きさは計り知れないものがあります。

スポンサーリンク

強く印象に残る魅力的なキャラたち

シャーロック・ホームズや金田一耕助など、古くからミステリ小説の大ヒットには個性的な人気キャラクターが必須です。

クリスティー作品の場合にも、数々の魅力的なキャラクターが作品の人気や知名度アップに貢献しています。実際に作品を読んだことがなくても、エルキュール・ポアロやミス・マープルの名前は聞いたことがあるという方も多いでしょう。

彼らの他にも、トミーとタペンス、パーカー・パインなど、年齢・性別・性格・体形・出自もさまざまなキャラクターがそれぞれの作品でイキイキと活躍しています。

さらに、彼らの脇を固めるキャラクターも実に多彩で、主人公の活躍を支えてイイ味を出しています。

有名なのは、ポアロシリーズの相棒役ヘイスティングス大尉やジャップ警部でしょうか。彼らは同シリーズのテレビドラマの影響などもあり、シリーズの定番キャラクターとしてファンに愛される存在です。

こうしたキャラクターの魅力は、読者に作品を印象付ける上でとても重要です。作品の細かな点や事件の結末を忘れてしまっても、お気に入りのキャラクターや好きなセリフなどは心に残りやすいもの。マンガなどで、そのキャラクターに会いたいがために作品を手に取るということがよくあると思いますが、小説でも同じことが言えるのです。

古典ミステリというと敷居が高いように感じますが、キャラクターに注目すると見え方が変わると思います。

彼らはそれぞれに個性やツッコミどころもあり、喜怒哀楽の感情も豊かで実に人間的です。数多あるクリスティー作品を読み比べて、自分だけの「推しキャラ」を見つけて楽しんでみてはいかがでしょうか。

「マザーグース」をさまざまな形で取り入れている

「マザーグース」とは、英語圏で古くから親しまれてきたナーサリーライム、日本で言う「わらべ歌」の総称です。英語圏の小説などを読むと、マザーグースの引用がたびたび登場するので、なじみのある方もいるでしょう。

クリスティーもこの「マザーグース」をさまざまな形で作品に取り入れています。

例えば「そして誰もいなくなった」や、ミス・マープルシリーズの「ポケットにライ麦を」などはマザーグースの見立て殺人ものとして有名です。

ほかにも作品の章タイトルや登場人物名などに、マザーグースの要素を取り入れた作品や、作中に引用が登場する作品も多くあります。

マザーグースの歌詞は、日本語で読むと意味不明なものも多く、最初のうちは戸惑うと思います。しかし、その歴史は古く、英語圏の文化を理解する上では重要なもの。「聖書」「シェイクスピア」「マザーグース」は英語を理解するためには必須の知識という説もあるほどです。

クリスティー作品をいくつか読んで興味が湧いてきたら、ぜひマザーグースについて書籍などで勉強してみてください。作品をより深く楽しめるのでおすすめです。

スポンサーリンク

自然な「会話」が盛り込まれた読みやすい構成

さまざまな翻訳ミステリを読むようになり実感したのが、「クリスティー作品は読みやすい」ということ。

クリスティーの作品はどれも、文章から情景が浮かびやすく、頭の中でどんどん場面が展開されていきます。後で触れる背景描写の細かさももちろんそれに貢献していると思いますが、さらに注目すべきなのが「会話」の果たす役割です。

どんな小説でもそうだと思いますが、ナレーション的な状況説明の文章よりも、登場人物たちの交わす会話のほうが、難しさを感じることなくスラスラと読めます。特にクリスティー作品の場合は、この会話がごく自然に流れるように展開していくのです。

例えて言うならマンガを読んでいる時の感覚に近いでしょうか。登場人物たちのセリフによるキャラクターの書き分けも見事で、キャラクターそれぞれの性格がしっかりセリフに乗っていて、誰が何を言っているのか読者にもすぐにわかるようになっています。

クリスティーは子どものころの一人遊びで、想像上の学校を作り出し、頭の中で複数のキャラクターを動かして楽しんでいたといいますから、そうしたことが能力としてすでに身についていたのでしょう。

また、彼女はもともと、小説の師匠であるイーデン・フィルポッツから、「会話に対するすぐれた感覚」を高く評価されていました。それと同時に説明的な要素を会話から省くようにとアドバイスも受けています。

元から持っていた感覚を認められ、それに磨きをかけていったことで、「自然な会話」はクリスティーの持ち味になったのです。

物語の世界に奥行きを与える生活感のある描写

クリスティーの作品には、ストーリー以外にも楽しめる特徴が多々あります。その一つが、読者の想像力を刺激する背景の描写です。

物語の舞台となる建物や乗り物、登場人物たちの身に着けている服や小物、家具や調度品などについて、特徴を捉えて丁寧に描写されています。

中でも個人的に大好きなのが食事やお茶の場面。登場人物たちが食べる物や飲む物、使っている食器などは、その家の暮らしぶりや登場人物の性質をリアルに感じさせてくれます。

イギリスのアフタヌーンティーや正装してのディナーなど、昔のイギリスの生活文化なども垣間見え、当時の生活を想像するのも楽しみの一つです。

実は食事の描写というのは、グルメを中心に据えたミステリでもない限り、あまり丁寧に描かれないのが普通です。もちろん食卓が事件の現場となったり、食事の様子が登場人物の心理を反映していたりなど、背景として以上の役割が与えられる場合は別です。

ただ、クリスティーの作品では必然性のあるなしに関わらず、登場人物たちが食事やお茶を楽しむ様子がわりと頻繁に登場しています。食べ物や飲み物を名称も交えて正確に描写していることも多く、それらを基にした解説本やレシピブックなども出版されています。

こうした背景描写は、物語に奥行きを与える大きな役割を果たしています。現実の私たちと同じように、起きて、運動して、食事をして、仕事をして、お茶をする登場人物たち。彼らの暮らしぶりを目にしているうちに、読者は物語の世界に入り込み、登場人物たちを身近な人間として感じられるようになります。

物語の舞台、そして登場人物たちがリアリティのある存在として立ち上がり、作り物であるはずの物語に立体感と温度を与えているのです。

※おすすめ作品は次のページでご紹介!

コメント