『鏡は横にひび割れて』のあらすじや感想、内容の解説!ミス・マープルが活躍するシリーズ後期の人気作

鏡は横にひび割れて アイキャッチ イギリス文学
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あなたは、自分の人生に自信を持って歩めていますか?

自分の人生に起こったことや手に入らなかったものを思って、前向きになれないままでいるという人もいるかもしれません。

そんなあなたにぜひ読んでいただきたい作品の一つが、今回ご紹介する『鏡は横にひび割れて』

悩んでいるときにミステリ小説とは、少し意外に思われるかもしれません。が、ミステリ小説にもほかのジャンルの作品と同様、作家の人生や社会に対する思いが盛り込まれています。

エンタメ性も兼ね備え、人生の参考書にもなるミステリ小説をぜひ手に取ってみてください。

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鏡は横にひび割れての作品情報

作者 アガサ・クリスティー
執筆年 1962年
執筆国 イギリス
言語 英語
ジャンル ミステリ
読解難度 読みやすい
電子書籍化
青空文庫 ×
Kindle Unlimited読み放題 ×

「ミステリの女王」アガサ・クリスティーの描く、「ミス・マープルシリーズ」の長編8作目となる作品です。

アガサクリスティー 写真アガサ・クリスティー(出典:Wikipedia)

村の生活の描写なども多く、情景が浮かびやすいので読みやすいと思います。

シリーズとしては後期の作品であり、過去の作品に登場したキャラクターの再登場などもありますが、ストーリーとしては独立しているのが特徴。そのため、いきなりこの作品から読んでも十分楽しめます!

鏡は横にひび割れての簡単なあらすじ

舞台は第二次世界大戦終結後のイギリス。時代は変わり、ミス・マープルの暮らすセント・メアリ・ミード村にも変化の波が押し寄せていました。

「新住宅地」と呼ばれる新興住宅地が形成され、新たな生活様式で暮らす人々と、昔ながらの暮らしを送る元々の住民グループが、隣り合わせで暮らしています。

甥のレイモンドによって住み込みの付き添い人をあてがわれるなど、年を重ねたミス・マープル自身の生活も以前とは変わって来ていました。

そんな折、村にあるゴシントン・ホールという邸宅に大女優マリーナ・グレッグ夫妻が引っ越してきます。

有名な女優がやってくるとあって、村はその話題でもちきり。ゴシントン・ホールのかつての所有者であり、ミス・マープルの友人でもあるバントリー夫人も新たに生まれ変わった邸宅に興味津々です。

ところが、そのゴシントン・ホールで行われた慈善パーティーで、新住宅地に暮らす女性ヘザー・バドコックが急死するという殺人事件が起こってしまいます。彼女は数日前に、転んでけがをしたミス・マープルを介抱してくれたとても親切な女性でした。

バドコック夫人は一体なぜ、誰の手によって殺害されてしまったのか。どうして殺害のタイミングが大勢の人が集まるパーティーの最中だったのか。

その現場に居合わせたバントリー夫人から詳しい話を聞いたミス・マープルは、独自に推理を始めます。事件に関連してさらなる殺人が起こるなど、事件が複雑化する中、ミス・マープルはどんな真相にたどり着くのでしょうか。

年寄り扱いされながらも、まだまだ元気なミス・マープルの洞察と推理が冴えわたるシリーズ後期の作品です。

こんな人に読んでほしい!

・ミス・マープルシリーズが気になっている

・時代の変化にどう対応していいか悩んでいる

・年齢を重ねていくことに不安を感じている

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鏡は横にひび割れてのキャラクターや舞台、映像作品の解説!

クリスティーの生んだ安楽椅子探偵「ミス・マープル」

アガサ・クリスティーのシリーズ作品に登場する探偵たちの中で、エルキュール・ポアロとともによく知られているのがミス・マープルでしょう。

ロンドンの郊外にあるセント・メアリ・ミードという架空の村に、一人で暮らす老婦人です。編み物をしながらひっそりとたたずむその姿からは想像もできませんが、類まれな観察眼と洞察力、そして鋭い推理力を兼ね備え、どんな謎でも解きほぐしてしまいます。

彼女のモデルは、観察力と洞察力に優れていたというクリスティーの祖母とのこと。また、1926年に発表されたポアロシリーズの『アクロイド殺し』に登場する、シェパード医師の姉キャロラインがミス・マープルの原型になっていると、クリスティー自身が語っています。

そんなミス・マープルが謎を解いていく際に不可欠なのが、「人間観察」「村のゴシップ」です。
長年の人間観察によってさまざまなタイプの人の特徴を掴んでいるミス・マープルは、その人の言動や考え方などを的確に予測し推理を組み立てていきます。

また、男性陣には軽く扱われがちな村のゴシップも、ミス・マープルにとっては貴重な情報源。一見するとどうということのない情報から真相へとたどり着くこともしばしばです。

作品を読み進める際には、ミス・マープルの推理の根幹となるこの二つのポイントに注意を向けてみてください。

ミス・マープルの活躍は、1930年に発表された長編『牧師館の殺人』を含む全12編の長編といくつかの短編で楽しめます。

なかでも連作短編集『火曜クラブ』(創元推理文庫版は『ミス・マープルと13の謎』というタイトル)では、話を聞いただけで真相を言い当ててしまうという、安楽椅子探偵(アームチェア・ディテクティブ)としての実力を見せつけてくれています。

時が経ったセント・メアリ・ミード村の変化にも注目したい

ミス・マープルがその人生のほとんどを過ごしてきた場所であり、シリーズの中核となる架空の村「セント・メアリ・ミード」。ロンドンからも適度な距離にあり、商店や牧師館など暮らしに必要なものは大抵揃っているという、住み心地のよさそうな村です。

シリーズ中では、村が事件の舞台として登場することもあれば、住人の思い出話が謎を解く重要なカギになるというパターンもあります。

やはり村というだけあって、人間関係が濃厚で閉鎖的な側面もあり、村の中で隠し事は絶対にできません。ミス・マープルも噂好きな老嬢の一人であり、村のゴシップネットワークで様々な情報を手に入れています。

『鏡は横にひび割れて』の舞台は、第二次世界大戦の終結後の世界。明確に年月日の記載はありませんが、おそらく執筆当時の年代に近いのではないかと思われます。

セント・メアリ・ミードでは、ミス・マープルの暮らす古くからの街並みが残る地域に加え、「新住宅地」と呼ばれる新興住宅地域が誕生し、若い世代が続々と流入してきていました。

新しい住人とともにスーパーマーケットなど新たな生活様式にあわせた商店も登場し、古くから村で暮らしてきた住人には戸惑いも広がっているようです。

それ以外にも、作中には「古いもの」と「新しいもの」を対比させる描写がたびたび登場し、時代の変化に直面していた当時の空気を感じられます。

例えば、古くから村人御用達の「インチ」と呼ばれるタクシーや行きつけの美容室は、ミス・マープルにとってもなじみのある落ち着けるものとして描かれます。一方、どこの通りも同じように見える新住宅地や掃除機などは、どこか得体のしれないものとして描かれたりしています。

老齢のミス・マープルの家にも、新住宅地の若妻であるお手伝いさんのチェリーや、住み込みで身の回りの世話(というか干渉)をしてくれる付き添い人のミス・ナイトなど、新たな顔ぶれが加わってきます。

彼らとミス・マープルのやり取りからも、世代間の物事の受け止め方の違いを垣間見ることができるでしょう。

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懐かしのキャラクターも登場!シリーズ後期作品ならではの魅力

『鏡は横にひび割れて』はミス・マープルシリーズの中でも後期の作品です。そのため、作中には後期作品ならではのファンサービスが仕込まれています。

まずは、事件の舞台となる「ゴシントン・ホール」。シリーズ長編第二作目『書斎の死体』の舞台となった邸宅です。『鏡は横にひび割れて』に登場するゴシントン・ホールは、新しい住人の手によって大幅な改装が行われています。

すっかり様変わりしたその姿に対する村人の賛否両論も読みどころです。

また、懐かしいキャラクターたちの再登場もうれしいポイント。代表的なのが、ゴシントン・ホールの元の住人であるバントリー夫人でしょう。

『書斎の死体』に登場した夫のバントリー大佐はすでに亡くなり、娘や息子を訪ねる旅から帰ってきたという設定です。彼女は広すぎる邸宅を売りに出し、自身は邸宅の門番小屋だった家を改装して暮らすという選択をしています。

事件の捜査にあたるスコットランドヤードの主任警部ダーモット・クラドックは、『パディントン発4時50分』にも登場したキャラクター。本作で久々の再会を果たし、ミス・マープルを感激させています。

また、直接の登場はありませんが、『牧師館の殺人』に登場した牧師夫妻についてミス・マープルが回想するシーンなども盛り込まれています。

こうした過去作品に登場した場所やキャラクターの再登場は、シリーズファンを喜ばせるうれしい仕掛けです。また、この作品でシリーズを初めて読むという人にとっては、シリーズの過去作品への興味を掻き立てられる巧妙な仕掛けともいえるでしょう。

タイトルの由来となったテニスンの詩『レディ・オブ・シャロット』

作品のタイトル『鏡は横にひび割れて』は、英国の詩人アルフレッド・テニスンの叙情詩『レディ・オブ・シャロット』の一節からとられたものです。

織物はとびちり、ひろがれり
鏡は横にひび割れぬ
「ああ、呪いはわが身に」と、
シャロット姫は叫べり。

ミステリ・ハンドブック アガサ・クリスティー(ディック・ライリー パム・マカリスター 編/森 英俊 監訳/原書房/2010年)p.298より引用

この詩はイギリスのアーサー王伝説をうたったもの。島の塔に幽閉されていたシャロット姫がランスロット卿という騎士に恋をし、外の世界に出ていこうとします。しかし姫は呪いによって亡くなり、姫の亡骸が乗った小舟がランスロット卿の元へたどり着くというストーリーです。

この詩が作中で初めて登場するのは、バントリー夫人がミス・マープルに事件の概要を話す場面です。

ゴシントン・ホールの新しい主人である女優のマリーナ・グレッグが、ふとした瞬間に見せた凍り付いたような表情。それをバントリー夫人はこの詩のシャロット姫のような表情だったと説明します。

突然詩の引用が登場するので、古典に精通していない身からするとやや戸惑うのも事実です。が、その説明を聞いてミス・マープルがすんなり理解したところを見ると、ある世代のイギリス人にとってはごく一般的なわかりやすい例えなのかもしれません。

また、この詩の引用は作中にたびたび登場し、作品世界を作り上げる重要な役割を担っています。詩の内容について少し調べてから読んでみても、深読みを楽しめるのではないでしょうか。

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映像作品としても親しまれてきたミス・マープルシリーズ

多くのクリスティー作品と同様に、ミス・マープルシリーズも映画やドラマで繰り返し映像化され、ミステリファンの垣根を越えて親しまれています。

クリスティーファンの中でも人気が高いのが、BBC制作のいわゆるジョーン・ヒクソン版と呼ばれるドラマシリーズ。主演のヒクソンは、生前のアガサ・クリスティーからもミス・マープル役の候補に挙げられていたという話もあるほどで、ミス・マープルのイメージにピッタリと言われています。

2000年代には、グラナダテレビ制作のシリーズ「Agatha Christie’s Marple」が放送され、二人の女優がミス・マープルを好演。ドラマオリジナルの設定なども話題となり、日本でも人気を博しました。

また、近年日本でもミス・マープルシリーズの作品が、オリジナルの設定で続々とドラマ化されています。『鏡は横にひび割れて』も沢村一樹さん主演で『大女優殺人事件~鏡は横にひび割れて~』として放送されました。

日本版のドラマ作品の特徴は、ミス・マープルのようなおばあちゃん探偵を登場させずに成立させている点です。主役の設定はかなりひねっていますが、日本版ならではのオリジナリティを存分に楽しめる映像作品になっています。

時代や国を越え、様々な作り手によって映像作品が作られ続けていることからも、原作の根強い人気と底力を感じられますね。

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