罪と罰の感想・解説(ネタバレ有)
ラスリーニコフとマルメラードフ(出典:Wikipedia)
ここからは、個人的に本作を読了したうえでの感想を書いていきたいと思います。
なお、記事の性質上この先はネタバレを多く含みますので、ご了承の上読み進めてください。
テーマの時点で面白い!普遍的な問題は様々な解釈が可能
まず、本作は神話的な物語であるという見方もできますが、それ以前に与えられているテーマの時点で非常に面白い作品といえるでしょう。
貧困に苦しむ学生が、「未来と成長のため」という理由で金貸しの老人を殺害し、その行為をめぐった物語が展開されていく。
ラスコーリニコフの行動は、現代でも非常に多面的な解釈で語られています。
ある人からすれば、いくら悪人であり老人であるとはいえ私利私欲のために人殺しをすることが正当化されるはずはない、と考えるでしょう。
またある人からすれば、確かにラスコーリニコフの行動は褒められたものではないが、自分の立場と重ね合わせて同情を示す、というのも全くおかしなことではありません。
本作を読んだ方ならば誰もがこの二択を考えてみることと思いますが、その答えは令和の世になってもなお定まってはいません。
この考え方を広げてみると、例えば現代の日本で問題になっている「社会保障」と「自己責任」といった議論さえも同じ原理で動いていることがわかります。
つまり、本作で取り上げているテーマは国や社会を問わず非常に普遍的なトピックであり、これが時代を超えて本作が愛される理由なのでしょう。
ちなみに、ドストエフスキーはラスコーリニコフの行動を認めなかったと解釈できます。それは彼より貧しくも清貧に生きるソーニャの描き方を見れば一目瞭然ですし、彼自身も最終的に自首をしていることからも理解できるでしょう。
皆さんは、ラスコーリニコフの行動を評価しますか?それとも…?
推理小説的な読み方をしても楽しめる
本作では、上記のような「殺人の正当化」をめぐった問題が大きいテーマになっているでしょう。
しかし、それを描くための「過程」となるであろう「追い詰められるラスコーリニコフの心理描写」や「判事との間に繰り広げられる問答」といった点も本作の優れた点です。
殺人を犯した後に、自己の論理に矛盾していないにも関わらず苦悩を続けるラスコーリニコフの姿は「人間」という存在の弱さを感じさせてくれますし、判事ポルフィーリとラスコーリニコフの問答も非常にスリリングでシンプルに面白いものです。
また、ソーニャとの出会いや捜査の進展によって「自首するか否か」という選択を迫られた際の心理描写は本当に見事で、ドストエフスキーの荒々しくも勢いのある文体がその情景を見事に描き出しています。
これらの点から、本作は「推理小説」としても非常に高い完成度を誇り、犯罪をめぐる人々の動きだけでも十分に楽しむことが可能なのです。
種や仕掛けをあらかじめ公開してしまう推理小説も増えてきましたが、見方によっては本作がそうした作品の初期段階ともいえそうですね。
ラスコーリニコフの「罪」に対する姿勢は意見が分かれるかも
本作の後半部分では、ラスコーリニコフがソーニャや友人らとの関わりの中でしだいに成長していき、最終的にはその罪を許されるという構成がなされています。
これは、ドストエフスキーの「罪を犯した人間も更生できる」という思想のもとで描かれた作品なので展開もそれに伴ったものになりましたが、この点は解釈が分かれそうです。
そもそも、彼は二人を殺害したうえで強盗に手を染めながら、わずか8年程度の刑にしか処されていません。
さらに、物語のラストではソーニャへの愛を確信するという、見方によってはずいぶんなハッピーエンドで締められているのです。
個人的に、ドストエフスキーが言うような「やむを得ない状況で犯した罪と向き合って悩んだのだから、救いがあってもいい」という発想には、あまり共感ができませんでした。
確かに情状酌量の余地はありますが、それでもラスコーリニコフはその罪を8年程度で清算できるとは到底思えません。
「どんな罪にも救いはあるんだ」という思想は人生を生きるうえで勇気づけられるものだとは納得する一方で、「絶対に取り返せない罪」というものは確実に存在し、彼の場合はそれが後者に該当するのではないかと感じてしまうのです。
私としては彼が「罪なき老婆の妹」を殺害しているという点がどうしても引っかかり、ラストに関してはすんなりと腑に落ちなかった覚えがあります。
まとめ
ここまで、ドストエフスキーの傑作『罪と罰』について解説を加えてきました。
確かに難しいテーマも多く読むには骨が折れる作品であるということを否定はしませんが、同時にエンタメ作品として実に完成度の高い物語でもあります。
政治・宗教的な内容を理解できなかったとしても、現代で読む価値のある文学であることは間違いありません。
読書に抵抗感がなければぜひ小説で、ちょっと難しそうであれば漫画や映画でも構わないので、ぜひ本作の世界観に触れてほしいものです!
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