『最後の事件』のあらすじや感想、聖地の解説(ネタバレ有)!モリアーティー教授とホームズの運命は…?

最後の事件 アイキャッチ イギリス文学
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短編56編、長編4編からなる、シャーロック・ホームズシリーズ。

その長い歴史の中に、空白の期間があったことはご存知でしょうか。

作者コナン・ドイルがホームズシリーズに終止符を打ち、ホームズから離れていた時期があったのです。

今回ご紹介するのは、ドイルがホームズシリーズを終わらせることを決意して書いた、その名もズバリ『最後の事件』短編集『回想のシャーロックホームズ』収録)。

前半はあらすじトリビアをご紹介し、後半はネタバレありで考察していきます。

作者・ドイルに思いを馳せながら、作品について考えていきましょう。

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『最後の事件』の作品情報

作者 アーサー・コナン・ドイル
執筆年 1893年
執筆国 イギリス
言語 英語
ジャンル ミステリ
読解難度 読みやすい
電子書籍化
青空文庫 ×
Kindle Unlimited読み放題 ×

ホームズ最大のライバルであるモリアーティー教授との直接対決が描かれ、発表当時から物議を醸した問題作です。

ホームズシリーズの中でも避けては通れない、伝説的な一作といえるでしょう。

他の短編と違って旅の情景が多く、新鮮な読み心地の作品なのも特徴です。

『最後の事件』の簡単なあらすじ

結婚して開業医となったワトスンホームズと事件の捜査に乗り出すことも少なくなり、新聞などで親友の活躍を目にするだけになっていました。

そんなある夜、ケガを負いフラフラになったホームズが診療所に転がり込んできます。尾行や襲撃を警戒するホームズの様子から、ただならぬ事態を感じ取ったワトスン。ホームズは「しばらく一緒に旅に出ないか」と提案し、その驚きの理由を話し始めます。

ホームズは水面下で巨大な悪の一味を捕えるために動いており、あとは警察が作戦を実行してくれるのを待つばかりという状態になっていました。しかし、その一味に命を狙われることとなり、作戦が無事に遂行されるまでロンドンを離れることにしたのです。

ホームズが捕えようとしている一味の黒幕が、悪名高き天才、ジェームズ・モリアーティー教授。ホームズが「犯罪界のナポレオン」と呼ぶ、底知れぬ賢さとカリスマ性を兼ね備えた人物です。

シャーロック・ホームズとモリアーティー教授。2人の天才の直接対決が、事件の数年後のワトスン視点で語られます。発表当時ファンを騒然とさせた問題作を、ぜひじっくり味わってください!

こんな人に読んでほしい

・いつもと違うホームズ作品を読みたい
・ミステリ小説に登場する悪役が好き
・作者コナン・ドイルにも興味がある

『最後の事件』のライバル、聖地を解説!

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ホームズ最大のライバル「ジェームズ・モリアーティー教授」

ホームズ最大の敵として登場するジェームズ・モリアーティー教授

ジェームズ・モリアーティー教授 挿絵ジェームズ・モリアーティー教授の挿絵(出典:Wikipedia)

特権階級出身の彼は、わずか21歳で「二項定理」に関する論文を書き上げ、それをきっかけに英国の大学で数学教授のポストを与えられた天才です。その後「小惑星の力学」という著作も発表し高い評価を得ています。

しかし、謎の黒い噂によって教授職を追われ、ロンドンへ移り住んだ後は、犯罪の道へと突き進むことになりました。

数学教授としての名声もあり、表向きは上流階級の英国紳士ですが、裏社会では犯罪ネットワークの中心にいる毒グモとして暗躍します。

影で多くの犯罪に関わりながらも、今回の『最後の事件』で登場するまで、その存在が表に出ることはありませんでした。

ホームズは作中で彼を「犯罪界のナポレオン」と称していますが、実は現実でもそう呼ばれた犯罪者が存在しました。その名もアダム・ワース(1844~1902)。

モリアーティーのモデルには何人もの候補があげられていますが、彼も有力候補の一人です。ロンドンに暮らしながら、巨大な犯罪網を操っていた人物ですが、長い間彼と犯罪を結びつける証拠がでなかったといいます。つまり、モリアーティー教授のように黒幕として暗躍していたわけです。

モリアーティー教授の特異な才能は、作中の外見の描写やセリフにもよく表れています。外見は本当に「THE・悪役」。多くの挿絵でも暗くおどろおどろしい雰囲気が再現されているので、ぜひチェックしてみてください。

ちなみに、彼が元々数学教授であったという設定は、ドイルの苦手科目が数学だったからではないかと言われています。あのアルフレッド・ノーベルがノーベル賞に数学賞を創設しなかったエピソードを思い出すもので、もし本当だとしたらおもしろいですね。

しかし、作中でこれほど印象的なキャラクターであるにもかかわらず、ホームズシリーズの正典の中で彼が登場するのはわずか2作品で、本作『最後の事件』と長編『恐怖の谷』だけ。

他に彼について触れているエピソードもいくつかありますが、それもわずか5作品しかありません。最大のライバルでありながら、かなりのレアキャラなのです。

登場回数は少なくても、シャーロック・ホームズを語る上で欠かせない存在であるモリアーティー。現代の映像化作品やパスティーシュ作品でも独特の存在感を放っています。

設定も人物デザインも作品によって様々なので、その違いをぜひ比べて楽しんでみてください。

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聖地巡礼といえばココ!「ライヘンバッハの滝」

近年は、アニメや漫画の舞台となった場所を巡る「聖地巡礼」が話題ですが、世界中にファンを持つ古典ミステリには、はるか昔からその文化が存在しています。

その聖地巡礼の代表的なスポットが、スイスにあるライヘンバッハの滝

ライベンバッハの滝ライベンバッハの滝(出典:Wikipedia)

シドニー・パジェットの大迫力の挿絵でも有名ですね。

現地ではシャーロキアン(ホームズシリーズのファン)のイベントなども行われ、思い思いの仮装をした参加者が集まります。

写真で見るだけでも大迫力の巨大な滝。ホームズたちがこの場所を訪れた時にあったであろう足場も削れ、形が変わっているのだとか。

滝の側にはホームズの記念プレートも設置されていますが、たどり着くまでのコースがかなりきついらしく、脚を鍛えてから出かけたほうがよさそうです。

作中では、スイス・マイリンゲンの地でホームズとワトスンの2人が宿泊した宿「英国旅館(エングリッシャー・ホーフ)」の主人に勧められた名所として登場。

作中のワトスンによる滝の描写は圧巻で、不穏な気持ちを掻き立てられます。

マイリンゲンには、ホームズたちが宿泊した「英国旅館」として正式に認定されているホテル・ソバージュという老舗の宿があり、宿の隣のコナン・ドイル広場ではホームズ座像が出迎えてくれます。

ホームズ広場 座像ホームズの座像(出典:Wikipedia)

世界中から集められたホームズグッズや、再現されたホームズの部屋を見ることができる、シャーロック・ホームズ博物館も見どころです。ちなみにホームズはマイリンゲンの名誉市民にもなっているのだとか。

作者・ドイルも休暇でスイスに滞在した際、実際にライヘンバッハの滝を訪れており、そこで物語の着想を得たとも言われています。

『最後の事件』の舞台となったことにより、物語の中だけでなく現実世界でも伝説的な場所となった、ライヘンバッハの滝とマイリンゲン。今では世界中から多くのファンが訪れる一大観光スポットになっています。

『最後の事件』を書いた作者・ドイルの葛藤

1887年の『緋色の研究』、1890年の『四つの署名』という2つの長編作品を経て、1891年から雑誌ストランド・マガジンの短期連載で人気に火が付いたシャーロック・ホームズシリーズ。

『緋色の研究』のあらすじや感想、時代背景を解説!名探偵シャーロック・ホームズが誕生した記念すべき一作
突然ですが、あなたは「名探偵」というキーワードで誰を思い浮かべますか? 国内外のミステリ小説にはさまざまな名探偵が登場しますが、その中でもずば抜けて有名なのがシャーロック・ホームズでしょう。 ヴィクトリア朝のイギリスに誕生したこの名探偵は、...

編集部にホームズ宛てのファンレターが届く、ベイカー街にファンが押し寄せるなど、社会現象を巻き起こしました。

しかし、作者コナン・ドイルにとって、ホームズの爆発的な人気は想定外の事態

アーサー・コナン・ドイル 写真アーサー・コナン・ドイル(出典:Wikipedia)

元々ドイルは、より重厚感のある歴史小説を書きたいと思っており、大衆向けの探偵小説の作家として世間に認知されていることには満足できなかったのです。

ホームズが話題になればなるほど、ドイルはホームズにうんざりしていきました。「本来書きたかった作品を書くべきなのではないか」という思いも強くなっていきます。

そんな折、前述したとおり休暇で訪れたスイスで、ホームズシリーズの最後に相応しい舞台に出会ったドイル。迫力の舞台を背景に書き上げた『最後の事件』でホームズに別れを告げ、その後8年ほどホームズからは距離を置くことになるのです。

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