本当に面白く、読むべきノーベル賞作家たち
前項では「ノーベル賞作家の本を読んでも面白いとは限らない」ということを解説してきました。
しかし、もちろんノーベル文学賞を受賞するだけのことはあって、中には「文学性と普遍的な面白さ」を両立している作家というのももちろん存在するわけです。
先ほどから挙げているような川端康成や大江健三郎といった日本人作家の作品が分かりやすいでしょうか。
そこで、以下では「本当に面白く、読むべきノーベル賞作家たち」と題して、100人以上の作家の中から私が「特におすすめできる!」と感じた三人の外国人作家を取り上げていきます。
ヘルマン・ヘッセ(1946年受賞)
ヘッセ(出典:Wikipedia)
まず一人目で挙げるのは、1946年に受賞したドイツ・スイス人作家【ヘルマン・ヘッセ】。
なぜ彼を取り上げたかというと、中学一年生の国語教科書に掲載されている「少年の日の思い出」という作品によって、文学好きでない方も一度は彼の作品に触れたことがあるためです。
作中におけるエーミールの不気味さや、
「そうか、そうか、つまり君はそんなやつなんだな」
という名言に代表される暗く救いがたい作風は、彼の作品に共通する部分でもあります。
そのため、読んでいて明るい気持ちになるタイプの作家ではありませんが、少しひねくれたような視点からじわじわと人の弱みや矛盾を抉り出していく文章を読むと、我々は人生や価値観といった深い概念に考えを及ばせることになるでしょう。
オススメの作品としては、彼の自伝的な性格が強い『車輪の下』あたりが挙げられます。
アーネスト・ヘミングウェイ(1954年受賞)
ヘミングウェイ(出典:Wikipedia)
二人目に挙げるのは、1954年に受賞したアメリカ人作家の【アーネスト・ヘミングウェイ】。
なぜ彼を取り上げたかというと、ノーベル賞作家としては珍しく大衆人気を誇った人物であり、彼の著作には文学初心者でも馴染みやすいと感じたためです。
ヘミングウェイは1920年~30年代に活躍した「失われた世代」と呼ばれる作家群の代表例で、他には本サイトでも過去に取り上げたフィッツジェラルドなどがよく知られています。
実際、彼の作品である『日はまた昇る』や『武器よさらば』はアメリカ国内で人気を博し、映画化なども経験する国民的作家に成長しました。
そのため、現代でも日本だけでなく世界中で読み継がれる偉大な作家の一人といえるでしょう。
オススメの作品としては、ノーベル賞授賞理由でも
「”老人と海”に代表される、叙述の芸術への熟達と、現代のストーリーテリングの形式に及ぼした影響に対して」
と触れられている『老人と海』が挙げられます。
カズオ・イシグロ(2017年受賞)
イシグロ(出典:BBC)
最後の三人目は、2017年に受賞したイギリスの現代作家【カズオ・イシグロ】。
彼に関しては古典作家ですらありませんが、近年の受賞作家の中では抜けて普遍的な面白さを有していると感じたのでここで挙げました。
イシグロはその名前からも想像できるように日系人であり、それもあってか彼の作品は日本人にとって非常に読みやすいと思われます。
実際、ノーベル賞作家にしては珍しくSF系の作品も書き残しており、受賞作にありがちな「宗教・政治を深く理解していないと作品を楽しめない」というようなこともまずありません。
日本人作家でいえば、村上春樹あたりと同じようなエンタメと文学性の割合になっているように感じます。
だからこそ、「イシグロがとれたなら村上春樹も…」という声が大きいのかもしれませんが。
オススメの作品としては、先に挙げたSF色があり日本でもドラマ化された『わたしを離さないで』や、老齢の執事が淡々と半生を回想する『日の名残り』あたりが挙げられます。
まとめ
ここまで、ノーベル文学賞の概要や「面白さ」との関連性について、思うところを述べてきました。
もちろん、ガルシア・マルケスやアルベール・カミュなどのように読み応えのある作家たちもノーベル文学賞を受賞しているので、今回取り上げた以外にも読むべき作家は少なくありません。
ただし、この記事で一番伝えたいことは「ノーベル文学賞は『面白い作品』を選ぶことに焦点を当てていないので、読んでみてつまらない可能性も低くはない」ということです。
皆さんも、一度は「次に読む本が決まらないからノーベル賞作家の本を読んでみよう」と考えたことがあるかもしれません(むろん私はありました)。
そう思ったときに、ふとこの記事で説明した受賞基準の話を思い出して「自分が今読むべきはノーベル賞作家の本なのか」ということを、今一度問い直していただけると幸いです。
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