『緋色の研究』の感想・考察!(ネタバレ有)
ここからは、本作に関する考察を含めた感想を述べていきたいと思います。
なお、記事の構成上ややネタバレ要素が含まれていますが、事件の結末・犯人・推理の過程などについてのネタバレはありませんので、その点は安心してお読みください。
犯罪の動機にも焦点を当てた、深みのあるストーリー
シャーロック・ホームズシリーズの大きな魅力が、ホームズがその卓越した捜査能力と推理力を発揮して、事件の真相やトリックを解明していく謎解きの部分。
犯行の動機を深く掘り下げることは少なく、それゆえに事件の背景にある人生ドラマが詳細に描かれることも多くはありません。
しかし、本作は事件につながる「犯人の過去」にもスポットが当たった、貴重な作品の一つとなっています。
前半で少し触れたとおり「緋色の研究」は二部構成。第一部ではロンドンでの事件と捜査の過程が、第二部では事件の背景にある過去の出来事が主題となっています。犯人の人生と犯行に至るまでのドラマが描かれることで、物語に奥行きが生まれているのです。
ただ、私は短編のホームズシリーズを先に読んでいたこともあり、初読の際にはその構成に正直少し戸惑いました。第二部の大部分はいわゆる回想シーンなわけですが、第一部と第二部の雰囲気の違いが驚くほどで、全く関連のない違う物語かのように感じたのを覚えています。
それだけ回想シーンの世界観も細部まで形作られているということであり、作者のこだわりを感じられるポイントとも言えるでしょう。
食生活や移動手段など、ヴィクトリア朝の生活を伝える背景描写にも注目!
ホームズシリーズでは、ロンドンの街並みはもちろん、登場人物の食生活や移動手段などホームズの世界を形作る背景の描写も非常に魅力的です。
いわゆる“メイド”など、労働者階級の女性の描写などからも、彼女たちの存在が当たり前だった当時のイギリスの暮らしが垣間見えます。もともと私がホームズシリーズにハマったきっかけも、異国の文化香る背景描写に強く惹かれたためでした。
もちろん本作でも、ヴィクトリア朝の人々の生活を伝える描写が数多く登場しています。食事の描写はトーストとコーヒーぐらいでそれほど多くありませんが、巡査の話に出てくる“4ペンスのジン・ホット”には当時の人々の暮らしぶりを感じますし、ベイカー街に報告にやってきた警部に“ウィスキーの水割り”を勧めるシーンでも、現代日本にはないお洒落さに心をくすぐられます。
当時のメインの移動手段の一つだった馬車については、四輪箱馬車(通称:ブルーム)や二輪辻馬車(通称:ハンサムキャブ)など、さまざまなタイプの馬車が登場しています。
こうしたヴィクトリア朝ならではの乗り物や生活雑貨などが登場したら、インターネットや書籍で実物の写真を確認してみましょう。より物語の世界に入り込んで楽しめるので非常におすすめです!
一作目から個性爆発!シャーロック・ホームズに感じる魅力
本作を読んで驚かされるのは、シャーロック・ホームズというキャラクターの完成度が極めて高いことです。一作目の段階で、これほど強烈な印象を残せるキャラクターというのも珍しいのではないでしょうか。
作中には性格や生活態度など、ホームズをホームズたらしめるポイントが細かく描写されています。それらの情報を目にするうちに、いつのまにかホームズのことをもっと知りたくなってくるのが不思議です。同居人に対し、並々ならぬ好奇心を抱いたワトスンの目線で語られるからこその効果なのかもしれません。
幅広い知識・捜査能力・推理力を合わせもち、剣術や音楽の技能も高いホームズは、一見すると何でもできる、雲の上の存在のように思えます。
しかし彼が多くのファンを引き付けるのは、不完全な部分も併せ持っているから。
わかりやすく言うと、「仕事の能力はずば抜けて高いのに、プライベートはだらしない」という人間らしさがあるからなのです。部屋は基本的に片付いていませんし、おもしろい事件に取り組んでいるときと、それ以外のときの生活態度の落差は心配になるほど。会話の相手をたびたびイラつかせてしまうなど、コミュニケーションの点でも難ありです。
シリーズを読み進めていくと、さらにいろんな欠点が明らかにされていくのですが、そのバランスの悪さが、ホームズを一人の人間として立ち上がらせ、読者に親近感を抱かせるのだと思います。
また、スコットランドヤードの警部に挑発的な態度を取ったり、ワトスンに褒められると機嫌がよくなったりと、人間味を感じる描写もたびたび登場。そうした人としてのかわいらしさを感じさせる点もファンの心をつかむポイントなのではないでしょうか。
のちのミステリにも大きな影響を与えた、名コンビの誕生!
名探偵ホームズと相棒のワトスン。本作は、のちのミステリ作品にも多大な影響を与えることになる2人の出会いを描いた記念すべき作品ともいえます。
病院の実験室での出会いのシーンはもはや伝説となっており、多くの映像作品やパスティーシュ作品でも再現されています。あの大人気マンガ「名探偵コナン」の中でも取り上げられていますので、ご存知の方も多いかもしれませんね。
同居してからのベイカー街でのホームズとワトスンのやり取りは、今でいうツンデレな雰囲気が微笑ましく、それぞれのキャラクターや二人の関係性をよく表しています。二人のやり取りから多くの名言も生まれているので、そのあたりもぜひ楽しんでみてください。
ホームズシリーズは、一部のエピソードを除いて、“ワトスンが執筆した事件の記録”という形を取っています。ワトスンが物語の語り手となり、一番近くで見たホームズの様子を伝えてくれるわけです。シリーズ中で、その描き方やタイトルの付け方についてホームズから難癖をつけられることもあり、ワトスンの書き手としての苦悩もまたおもしろいポイント。
この2人の登場以降、“相棒が探偵の動向を見守り語り手となる”という形は「ワトスンシステム」と呼ばれ、有栖川有栖さんの「火村英生シリーズ」、アンソニー・ホロヴィッツさんの「メインテーマは殺人」など、多くの作品に採用されています。
この名コンビの誕生が、その後の多くのミステリ作品やパスティーシュ作品の誕生につながっていることを思うと、ミステリ好きとしてコナン・ドイルには感謝しかありません。
まとめ
今回はコナン・ドイルの『緋色の研究』を取り上げました。
シャーロック・ホームズの世界と言うのは本当に奥深く、私自身もまだまだ知らないことばかりで、再読のたびに新たな発見があります。
シャーロッキアンの研究分野が多岐にわたることからもわかるとおり、ホームズ作品の楽しみ方は千差万別。
これまで読んだことがなかったという方も、ぜひ作品を手に取って、自由に作品世界を楽しんでみてください!
\シャーロック・ホームズシリーズも読める!/Kindle Unlimitedを30日間無料で体験する!
コメント