「世界最古の物語は何か」と尋ねられた時、皆さんはどう答えるでしょう。
私としては、今回紹介する『ギルガメシュ叙事詩』をその回答にするかもしれません。
この作品は人類最古の文明「古代メソポタミア文明」で生まれ、現代にいたるまで世界中の物語に多大な影響を与え続けてきました。
近年では、今をときめく大人気ソシャゲ「FGO」の原作となった「Fate Stay/Night」にも主人公のギルガメシュをモチーフにしたキャラが登場し、若年層の間で知名度が高まりつつあります。
そこで、この記事では『ギルガメシュ叙事詩』のあらすじや感想、読み方の解説を書き連ねていきます。
なお、この記事では1ページ目にあらすじや作品情報・トリビアといった解説文を、2ページ目は書評(ネタバレ多め)を掲載していますので、部分ごとに読んでいただいても大丈夫です。
ギルガメッシュ叙事詩の基本情報
まず、本作に関する基本的な作品情報を整理しておきます。
普通の小説と異なり、いかんせん時代が離れすぎているために本作を読むうえではある程度事前情報を仕入れておくことが不可欠かと。
詳細はこちらです。
作者 | 不詳 |
---|---|
執筆年 | 紀元前1300年~1200年ごろ(標準版) |
執筆国 | 古代メソポタミア |
言語 | 標準バビロニア語(標準版) |
ジャンル | 英雄譚・冒険小説・神話 |
読解難度 | やや読みにくい |
電子書籍化 | 〇 |
青空文庫 | × |
Kindle Unlimited読み放題 | × |
ギルガメッシュ叙事詩のあらすじ
神の国ウルクに君臨する神と人の血を受け継ぐ王ギルガメシュは、名君でもありながら同時に暴君でもあるという二面性を合わせ持っていました。
優秀な人物でありながらその暴走に耐えかねた市民たちは、天神アヌにその旨を訴えます。
アヌはその声に応じ、ギルガメシュの横暴を抑えるべく彼のライバルとなり得る人物を創造するよう女神アルルに命じました。
こうして生み出された人物がエンキドゥで、彼は野獣のような生活を送ることになります。
しかし、その野性味も娼婦との生活でしだいに落ち着きはじめ、彼は友となり得るギルガメシュのうわさを聞きつけ、ウルクへと足を弾ませました。
一方のギルガメシュも彼の到来を楽しみにしていましたが、ギルガメシュと出会ったエンキドゥは彼に関する悪評を耳にすると、それに憤慨。
二人は大乱闘を繰り広げた末、お互いに力を認め合い親友となりました。
こうして終生の友人となった二人は、世界中を冒険して飛び回ることになるのです。
こんな人に読んでほしい
・Fateのギルガメッシュが好き
・古代文明というものにロマンを感じる
・人類最古の物語を知りたい
ギルガメッシュ叙事詩の作品紹介・読み方解説
ギルガメシュ(出典:Wikipedia)
次に、本作に関する作品紹介と読み方の解説を行っていきます。
紀元前の物語ということもあって、このあたりの解説もマメ知識として頭に入れておくとよいでしょう!
古代メソポタミアで成立し、様々な言語や場所で受け継がれてきた
まず、本作は世界最古の文明「古代メソポタミア文明」で成立した作品ではありますが、残念ながら完成当時の原稿や石碑は現存していません。
現存していて最古のものは、紀元前2000年ごろに執筆された「写本」と確認されています。
これはシュメール語で書かれた書記学生の練習品と目されており、当時の人々もまさかこの文書が現代まで残存しているとは思っていなかったでしょう…。
他にもいくつかのバージョンが存在するのですが、一般に我々が知っている『ギルガメシュ叙事詩』は紀元前1300年~1200年ごろに古代バビロニアで完成した「標準バビロニア語」で書かれたものです。
ここから、我々の知っている本作は「標準版」と呼称され、当時の古代文明においてこの物語が広く流布していたことを示しています。
ちなみに、紙もペンも存在しない時代の作品ですから、内容は粘土板に楔形文字で刻まれました。
発見されたのは比較的近年になってからで、1872年のことであると言われています。
旧約聖書の「ノアの箱舟」に類する話が収録されている
ミケランジェロ『洪水』(出典:Wikipedia)
この作品が発見されるまで、『旧約聖書』こそが全ての物語の始祖と考えられていました。
それはアダムとイヴの世界創造神話からも想像ができるかもしれませんが、本作の存在はそうした宗教観に大きな影響を与えたのです。
その事実は西洋社会に大きな衝撃をもたらすとともに、本作の知名度を大きく押し上げる要因にもなりました。
また、『旧約聖書』だけでなくギリシア神話など世界中の神話に多大なる影響を与えており、古代文明社会において本作を知っていることは、一種の常識であったのかもしれませんね。
ちなみに、宮崎駿監督が手掛けたジブリ作品『もののけ姫』にも本作の影響を確認することができます。
日本でも訳書が多く簡単に本で読めるが、文章に欠けが多く注意を要する
世界中を瞬く間に駆け回った「ギルガメシュ・ショック」は日本にも伝来し、1965年にはオリエント学者の矢島文夫氏によって日本語版の書籍が出版されました。
その後、1985年には筑摩書房にて文庫化がなされており、学校や公共の図書館でもかなり容易に読むことが可能です。
加えて、文庫化されていることからも分かるように、神を扱ってはいますが神話特有の「難解さ」「宗教的世界観」はあまり感じません。
むしろ人間の死生観や友情をメイントピックとして描いているため、本作よりはるかに後年に作成されたキリスト教文学よりも読みやすいのが特徴です。
そのため、「Fate」を見てギルガメシュに興味を持ったという方は、ぜひ訳書に挑戦してみてください!
ただし、一つだけ注意すべき点としては、なにぶん古い作品のため写本においても文字の欠損があり、文庫においても文章が途切れ途切れになっています。
そのあたりはなにぶん古い文学ですので、話を見失わないよう注意してください。
※続きは次のページへ
コメント