ギルガメッシュ叙事詩の感想・考察(ネタバレ有)
古代メソポタミア文明の石碑
ここからは、個人的に本作を読了したうえでの感想を書いていきたいと思います。
なお、記事の性質上この先はネタバレを多く含みますので、ご了承の上読み進めてください。
テーマが非常に普遍的であり、読みやすさはピカイチ
これは先ほども少しだけ触れたかもしれませんが、本作は「死生観」や「友情」といった普遍的な題材を扱っており、神話性を帯びながら非常に読みやすい作品となっています。
キリスト教系の学校に在学していた方はよくわかると思いますが、正直神話系の物語には読みずらい点が多々あります。
また、作品によっては現代の常識とあまりにもかけ離れた世界観が描かれており、
「作中ではめっちゃ称賛されているけど、全然共感できない…」
ということが頻繁に起こり得るのです。
しかし、本作に関してはもちろんぶっ飛んだ設定も数多くあるものの、登場人物たちの行動原理がおおよそ現代的な価値観でも理解できるのが優れた点でしょう。
やはり、どれだけ時代が経過しても普遍的な価値というものが存在することを感じさせられます。
特に、怖いもの知らずのギルガメシュがエンキドゥの死をキッカケに不死を追い求める姿などは、今でも心を動かされますね。
世界最古のBL小説?いや、これは友情の物語である
本作を評する声として、「世界最古のBL小説なのではないか」という意見が存在します。
実際、ギルガメシュとエンキドゥが和解した後は恋人以上に行動を共にしていますし、ギルガメシュは女神イシュタルによる誘惑をものともしません。
このあたりの点から、両者がある種の同性愛関係にあるという見方は可能でしょう。
しかし、個人的にはそもそも彼らの関係を「恋愛関係だ」と見なすこと自体にあまり納得できませんでした。
むしろ、彼らが築き上げていた関係は恋愛を超越した究極の友人関係であり、まさしく一心同体の状態にあったと思うのです。
お互いを真のパートナーとしてリスペクトし、暴君を名君に、野生児を英雄に変質させる関係性。
彼らのあり方はまさしく理想の人間関係を象徴しており、我々としても見習うべきところがあるでしょう。
そして、それほどまでに心が通じ合っているエンキドゥが死の呪いに倒れると、彼らは病床で旅の思い出を語らいあって別れることになるのです。
私が彼らの関係を「友人」と見なしたい理由として、これほどまでに深くお互いを尊敬できる関係はとてもステキだと思う、というのもありますね。
恋愛関係だとそれが当たり前のようになってしまう節がありますし、友人だからこそ美しい関係性なのではないでしょうか。
尻切れのように終わってしまうラストシーンをどう解釈するか
エンキドゥを失ったギルガメシュは不死を追い求め、若返りの草を手にします。
しかし、旅から国へ変えるさなかに水浴びをしていると、その草を蛇に持ち去られてしまうのです。
ギルガメシュは泣き、無念を抱えたままウルクへ帰還することになりました。
驚くべきことに、物語はここで幕を閉じてしまいます。我々としては、「えっ、草を持ち去られて終わっちゃうの?」と思うかもしれません。
この点に関しては様々な解釈が存在し、標準版以外の版では「今を生きること」に充足し永眠することになったという記載もあることから、不死を諦め生を謳歌したというのが有力な見方となっています。
ただ、この部分に関しては明らかに意図した物語の締め方をされていると感じ、そもそも作者は「結末は各自の想像に任せる」という発想で物語を記した可能性も指摘できるでしょう。
一方、『ギルガメシュ叙事詩』に含まれなかった寓話として、帰還したギルガメシュが名君としてウルクを治め、惜しまれながら天寿を全うしたという「ギルガメシュの死」という項目が存在したようです。
これを受け、研究では「最後に主人公が死ぬのはきまりが悪かったので収録しなかったのではないか」と指摘されていました。
もっとも、現代の価値観でいけば、
「友人の死をきっかけに不死を追い求めたギルガメシュが、それを乗り越え生を謳歌した」
というストーリーは完成度も高く、個人的には収録してほしかったとも思いましたが…。
まとめ
ここまで、世界最古の物語『ギルガメシュ叙事詩』を解説してきました。
本サイトのテーマである「古典への苦手意識をなくす」という目標を達成するには最適な文学ということで、初心者の方にもなるべく分かりやすい解説を心掛けたつもりです。
「FGO」の中でもメインストーリーの第7章はウルクを舞台にした物語であったと記憶しており、あの世界観に興味を持った方はぜひ本作にチャレンジしてみてほしいですね。
皆さんの大好きな「ギルガメッシュ」が喜び・暴れ・悲しむところを余すところなく楽しむことができますので。
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