ジェーン・エアの感想・考察(ネタバレ有)
ここからは、本作に関する考察を含めた感想を述べていきたいと思います。
なお、記事の構成上多くのネタバレを含みますので、その点はご了承ください。
美人ではない主人公・ジェーンが魅力的!
物語のヒロインにもかかわらず、作中で語られるジェーンの容姿は「美しい」とはいえません。
「とても小柄で子供のよう、加えて誰が見てもそれほどの器量良しではない」
という具合。
ロチェスターも会ったばかりの頃に、彼女を小さな尼さま(ナネット)のようだと表現しています。
しかし、彼はこうも言っています。「風変わりで、物静かで、大真面目で、純真」と。
一方のロチェスターも、お金持ちではあるけれど美男子ではなく、荒々しく偏屈な一面があります。
当時としては「異常な」自立志向を有していたジェーンと、困ったお金持ちのロチェスター。
すなわち、彼らの恋愛は「変わり者同志」によるものなのです。
今でもそうですが、この時代はとくに「小説のヒロインとヒーローは美男美女」と決まっていたので、珍しい組み合わせということになります。
彼らを美男美女に描かなかったのは、もちろん意図があってのこと。
作中で、ジェーンが「私を美男子だと思うか?」というロチェスターの問いに
「いいえ、容貌の美しさなど取るに足りぬものです」
と答えているように、シャーロットは
「どこにでもいるような普通のキャラクターが、自分の力で人生の道を切り開いてゆく姿」
を描きたかったのではないでしょうか。
彼女の言葉を象徴するかのように、ラストでロチェスターは火事により片腕をなくし、額に火傷をおい、加えて盲目になってしまいます。
醜い姿となった彼を見ても、ジェーンは
心が痛みます。でも何より困るのはそれにも関わらず、あなたをついつい愛しすぎてしまうことですわ
と話すのです。
作者・シャーロットは主人公たちをとことん美しく描きません。
が、それでも私には彼らがとても魅力的な人物に思えます。
19世紀中ごろのイギリスでベストセラーになったのも、こうした姿に共感する人が多かったことを示しているのではないでしょうか。
とにかく自立したジェーンの姿が、画期的と言われた理由
この物語はジェーンの幼少期から結婚後までを描いているのですが、どこで暮らしていても彼女の「不屈の精神」を感じとれます。
・意地悪な叔母、従兄弟に反抗
・仕事を持ち自立、雇い主に対等に意見する
・ロチェスターとの結婚を彼の親戚に反対された時、腹を立てて大反論
・無一文で逃げる
・求婚してきた男性をばっさりと断る
・自由恋愛を志す
現代では違和感のない行動もありますが、当時はかなり異色のヒロインでした。
画期的な作品と目された理由は、こういった主人公が当時の読者に驚かれたからなのです。良家の子女には読ませてはならぬ、とも言われたそう。
外見が美人ではなく、内面も(当時としては)挑戦的。ここだけ読めば、彼女を好きになる理由はありません。
しかし、本作はシャーロットが父親の看病をしていた2年間に描かれています。彼女の「女性も自由に生きたいという願望」が描かせた作品だと思うと、この時代の女性たちを不憫に思わずにはいられません。
さらに、作品が進むにつれてジェインから受けるイメージが変化することも印象的。
不幸な生い立ちからジェーンの表情は硬く、序盤に笑顔の描写はありませんでした。しかし、ロチェスターに出会ってからは、少しずつ埋もれていたユーモアで快活な部分が現れるのです。
下記は、特に私が気に入っている一節。
あなたときたら小鬼(ブラウニー)のようですもの、もっとも昔からそうでしたけれど
これは、障害を負い、髪さえ整えていないロチェスターを励ますための言葉です。
イギリス風のユーモアは、分かりやすいアメリカンジョークとは違います。皮肉がミックスされ、じわりじわりと響いてくるのです。しかしながら上品に感じるので、なんとも不思議。
快活でユーモラスな一面も有するジェーン。私は「可愛げがない」とは思いません。
「ホラー×恋愛」のゴシックロマンス作品?
本作をジャンル分けすると「ゴシックロマンス」という区分になります。
が、あなたはこの言葉を聞いたことはありますか?
私が初めてを作品を手にとった時、本作は恋愛小説だと認識していました。ところが、作中には「とても恋愛小説らしくないシーン」がいくつも確認できます。
奇妙な笑い方をする女のせいで小火が起こり、危うくロチェスターは死んでしまう寸前。さらに西インドからの来客リチャード・メイスンは何者かに肩を噛み付かれ、血だらけでした。
恐ろしい出来事はまだ続きます。ジェインとロチェスターの結婚式を控えたある夜、彼女の部屋に忍び込んできたのは、吸血鬼を連想させる赤い目で黒ずんだ顔の女、という具合。
つまるところ、ここでいう「ゴシック」とはおどろおどろしい様子を表してまして、古めかしいお屋敷でヒロインに怪奇現象のようなあり得ないような危険が迫ることを指します。
この「ゴシック」要素と「恋愛」を掛け合わせた「ゴシックロマンス」というジャンルは、主にイギリスで18世紀末〜19世紀初頭にかけて流行しました。「不気味なシチュエーションと恋愛」という点で言えば、現代のホラー小説やSF小説にも共通する部分があります。
しかし、本作は当時流行していた「典型的なゴシックロマンス」とは決定的に異なる点がありました。
従来のゴシックロマンスと異なるのは、ジェーンが「ヒロインらしく」危険から遠ざけられて守られる…のではなく、逆にロチェスター様を助けるため奮闘するところ。
「火事場で奮闘し、リチャードの血を拭って彼の世話をする」というような、危険を顧みない行動は読者にとっても予想外だったでしょう。
数々の無気味な事件に、奮闘するジェーンの姿。
これを見せつけられては、読者としても恋愛模様を楽しむより、ハラハラしながら真相を追うことに集中しなければなりません。
テンポの良さも相まって、物語の世界に引き込まれます。
まとめ
ここまで、シャーロット・ブロンテの傑作小説『ジェーン・エア』の解説を行ってきました。
シャーロットの紡ぐ文章は、まるで繊細で美しい詩のよう。イギリスの素晴らしい自然がありありと想像できます。
また読み手に向けて「読者よ」と語りかけるような構成も本作の魅力ですね。
そして、彼女の分身のように聡明なジェーンというキャラクターの存在も外せません。
読み応えたっぷりの物語を、ぜひ読んでみてください!
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