『赤毛組合』のあらすじや感想、内容を解説!作者コナン・ドイルもお気に入りの名作短編!

赤毛組合 アイキャッチ イギリス文学
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赤毛組合の感想・考察!(ネタバレ有)

ここからは、本作に関する考察を含めた感想を述べていきたいと思います。

なお、記事の構成上ネタバレ要素が含まれていますので、未読の方はぜひ作品を読んでから先を読み進めてください。

小さな詐欺事件から銀行強盗につながる驚きのストーリー展開

ジェイベズ・ウィルスンが持ち込んだ奇妙な組合の話から、ホームズはその陰で進行していた大きな犯罪の存在に気がつきます。その犯罪とは、なんと銀行強盗でした。

ジェイベズ・ウィルスンが赤毛組合で簡単な仕事に勤しんでいたころ、彼の住居兼店舗から銀行の金庫へのトンネルが掘り進められていたのです。ホームズは「赤毛組合の消滅=トンネルの完成」と推理。金庫で犯人たちを待ち伏せ、見事に現行犯逮捕します。

『赤毛組合』の見事な点は、前半と後半で描かれる事件のギャップです。前半では、無害どころか被害者に利益をもたらし、コミカルないたずらともとれる「赤毛組合事件」を面白おかしく読ませます。

後半では一転、夜のロンドンを舞台に凶悪な強盗犯と対峙するというシリアスな展開に。ワトスンに軍用ピストルを携帯させるなど、物々しい雰囲気の中、沈黙と暗闇の中で犯人たちを待つという緊迫感に読者も手に汗を握ります。

2つの事件のギャップが物語にメリハリをつけ、後半の強盗事件の緊張感と重大性が強調されます。
また、日常の中の些細な事件の陰に非日常の大事件があるという設定は、読者の想像力を大いに刺激し、日々のワクワク感を増大させてくれるのです。

ホームズVS悪名高き犯罪者

今回の銀行強盗の首謀者はジョン・クレイ。殺人、強盗、贋金づくりと数々の悪事を働いてきた彼は、スコットランドヤードからも目をつけられていた札付きの悪党でした。

ホームズ曰く、ロンドンで4番目に頭が切れて、ロンドンで1番冷静沈着、そして大胆きわまりない犯罪者とのこと。

彼はヴィンセント・スポールディングと名乗り、ウィルスンの質屋に従業員として潜り込みます。そして、主人が赤毛組合の仕事で不在の隙に銀行の金庫へのトンネルを掘り進めていたのです。もちろん赤毛組合は彼が相棒とともに作ったウソの組合でした。

銀行強盗自体はいけないことですが、発想自体はユニークで大胆ですよね。あまり思いつかないアイディアですし、思いついても実行できる人は少ないはず。

ホームズが絡んでこなければ、きっと成功していたんだろうなと思います。実際、1869年にアメリカのボストンで「ボイルストン銀行強盗事件」という、これとそっくりな事件が起こっており、その時の犯人たちはお金を盗み出すことに成功しています。

ヴィンセントが相場の半分の給料で雇ってくれと言ってきたということや、その身体的な特徴を聞き、「ヴィンセント・スポールディング=ジョン・クレイ」であると確信したホームズ。

慎重に事を運び現行犯逮捕に持ち込んだのも、そのときの異様な緊迫感も、危険な相手であるとわかっていたからこそだったのです。

今回のように悪名高い犯罪者とホームズの対決というのは、シリーズ中にたびたび登場します。ホームズは彼らの情報に常に目を光らせており、犯罪者たちもまた、ホームズの動向に注目しているというバチバチの間柄なのです。

基本的には悪を許さないホームズですが、センスのある犯罪者たちとの対決は手ごたえがあるようで、相手が賢くて悪い奴であるほどイキイキしています。

『赤毛組合』の最後で、早くも退屈に襲われてしまっていることからもそれがよくわかりますね。

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「淡々としつつ鮮やか」な捜査がたまらない!

アクションとして派手なのは終盤の逮捕編なのですが、その前の捜査編の淡々としたスタイルも、ホームズの頭の回転の速さがよくわかる魅力的なパートです。

『赤毛組合』でのホームズの捜査に派手さは全くありません。地下鉄で出かけて行って、さらっと現地調査をしておしまい。同行したワトスンも何を調べているのかよくわかっていません。そのあとは食事とコンサートに気持ちを切り替えて、夜まで時間をつぶしています。

わたしは初読の際に、「あれ?捜査編もう終わり?」とやや拍子抜けしました。

しかし、最後まで読むと、実はそこまでで半分以上は勝負がついていたと分かります。ホームズは現地調査の前に、1時間ほど(ホームズ曰く、たっぷりパイプ三服分)じっくりと推理に費やしており、逮捕までの絵はすでに描けていました。あとはそれを実行するだけだったわけです。

そもそも捜査と逮捕の間にコンサートに行っていますからね。さすがに解決が見えていないとそこまではできないでしょう。

この捜査編は「仕事のできる男ホームズ」という感じが出ていて、個人的にもお気に入りのパートです。しかも、捜査中に取った行動の伏線がきちんと回収されるという、納得の結末も用意されていて、すべてがきちんと腑に落ちるという無駄のなさも見事です。

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まとめ

今回はシャーロック・ホームズシリーズの名作短編『赤毛組合』を取り上げました。

実は私が初めて読んだホームズ作品がこの作品で、「すべてわかっているホームズ」という存在にすごく憧れたのを覚えています。

ホームズシリーズでもいろいろな作品を読んできましたが、いまだにこの作品は特別です。

エピソードごとに、多彩な表情を見せてくれるホームズ。その魅力は読者やのちに続く作家たちに強い印象を残してきました。

あなたもぜひ短編作品でその魅力を発見してください!

※物語の人物名や固有名詞の表記は、「シャーロック・ホームズの冒険(深町眞理子訳/創元推理文庫/2010年版)」を参考にしました。

【参考文献】
・シャーロック・ホームズの冒険【新訳版】(深町眞理子訳/創元推理文庫/2010年版)
・シャーロック・ホームズ完全ナビ(ダニエル・スミス著/日暮雅通訳/国書刊行会/2016年)
・シャーロック・ホームズ大図鑑(デイヴィッド・スチュアート・デイヴィーズほか著/日暮雅通訳/三省堂/2016年)
・ホームズのヴィクトリア朝ロンドン案内(小林司・東山あかね著/新潮社/1993年)

【参考ウェブサイト】
・ウィキペディア内「フリーメイソン」

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