黒人奴隷を美化した人種差別的作品と話題に…。『風と共に去りぬ』のあらすじや感想、内容の解説

風と共に去りぬ アイキャッチ アメリカ近現代文学
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マーガレット・ミッチェルの描いた大長編小説『風と共に去りぬ』

古典的な名作と読んで差し支えない作品で、皆さんも名前くらいは聞いたことがあるでしょう。

しかしながら、本作が昨今アメリカで発生した反人種差別運動「Black Lives Matter」の過程で、本作が「人種差別を肯定している作品」と批判を浴び、米動画サービスでも配信を一時停止する事態にまで発展していたことをご存じでしょうか。

この一件に関しては、皆さんそれぞれの言い分があると思います。が、そもそも論として『風と共に去りぬ』という作品がどのような物語かを知らないと、いったい何が問題視されているのかを理解することもできません。

そこで、本記事で行う『風と共に去りぬ』という作品の解説を通して、「物語と人種差別」という難しいテーマを考えるキッカケにしていただければと思います。

この記事では1ページ目にあらすじや作品情報・トリビアといった解説文を、2ページ目は書評(ネタバレあり)を掲載しますので、この作品に少しでも興味をもっていただければ幸いです。

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風と共に去りぬの作品情報

まず、本作に関する基本的な作品情報を整理しておきます。

作者 マーガレット・ミッチェル
執筆年 1936年
執筆国 アメリカ
言語 英語
ジャンル 歴史小説
読解難度 読みにくい
電子書籍化
青空文庫 ×
Kindle Unlimited読み放題 ×

本作を「読みにくい」と紹介したわけは、全5冊におよぶ大長編だということもあります。

ただ、一方で本作の内容が「南北戦争の背景を知らないと理解しにくい」ということと、「黒人奴隷に対する白人の態度を不快に感じる可能性が高い」ということからそう判断しました。

一方、非常にセンシティブなテーマでありながら、主人公スカーレットのたくましい生き方は現代の人々にも勇気を与えるもの。

人種問題や新型ウイルス、またコロナショックによる経済危機で社会が窮地に追い込まれている今こそ読むべき作品とも言えるでしょう。

風と共に去りぬの簡単なあらすじ

舞台は1861年のアメリカ・ジョージア州。アイルランド系の移民であるオハラ一家は、綿花の農園を経営していました。

当主の娘であるスカーレット・オハラは若く美しい上、快活で男性の扱いが上手いために男たちを虜にしています。彼女が想いを寄せるのは穏やかで容姿端麗なアシュレですが、彼はスカーレットに惹かれていることを認めつつも「結婚相手には向かない」と、真面目で控えめな性格のメラニーと婚約します。

スカーレットは怒りを覚え、壁に花瓶を投げつけ不快感をあらわにします。一方、その場を紳士だが異端児のレット・バトラーに見られてしまいました。レットはスカーレットの火の如く激しい精神に興味をもちます。

やがて南北戦争が激化すると軍隊は志願兵を募集しはじめ、アシュレや、スカーレットが当て付けで結婚を決めたメラニーの兄・チャールズも戦地へ赴くこととなりました。

が、チャールズは戦地で病死し、未亡人となったスカーレットはチャールズとの子・ウェードと義妹・メラニーと共にアトランタで生活しはじめます。喪服姿のスカーレットがパーティで踊れないことを嘆いていると、目の前に現れたのは大嫌いなレットでした。

一方戦局は悪化しており、ついに彼女たちの住むアトランタまで北軍が攻め入ってきてしまいます。「もはやこれまで」そう思われたタイミングで不幸にもメラニーの出産が近づいており、アシュレからメラニーを頼まれていたスカーレットはその約束のために逃げ遅れてしまいます。窮地に追い込まれたスカーレットが助けを求めたのは——。

こんな人に読んで欲しい

・南北戦争の歴史に興味がある
・人種差別について深く考えたい
・生命力のある作品が読みたい
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風と共に去りぬで描かれた南北戦争や原題、ベストセラー化の理由を解説!

先ほど、本作は「読みづらい」と言いましたが、読む前にある程度知識を入れておくことでいくらか読みやすくはなります。

以下ではとくに重要と思われるものを解説してみました。

物語の背景にある「南北戦争」を知ると作品が理解しやすくなる

本作の背景には1861年に起きたアメリカにおける唯一の内戦、南北戦争があります。物語において非常に重要な意味をもつのでここは詳しく説明していきましょう。

かつてアメリカは南部(アメリカ連合国)と北部(アメリカ合衆国)に分かれていました。

南北戦争 勢力
青がアメリカ合衆国、赤がアメリカ連合国の加盟州(出典:Wikipedia)

南部では主に綿花を中心とした農業のプランテーション経済が発展しており、それをヨーロッパに輸出することで栄えていました。しかしその成功には黒人奴隷の労働力が不可欠であり、多くの奴隷が金銭取引によってイギリスから「輸入」されていたのです。

対して、北部は米英戦争(1812-1814年)の影響でイギリスとの貿易が途絶しており、急速な工業化が進んでいました。そのため、フレキシブルな労働者が求められており、衣食住の面倒を見なければならない南部流の奴隷制度とは相容れなかったのです。

また、南部は輸出のために自由貿易を望み、北部は自国の工業を発展させる為に保護貿易を望んでいました。ことに奴隷制度と貿易に対しての考え方の相違により、二つの勢力は真っ向から衝突する形でアメリカ史上最大の内戦「南北戦争」を引き起こします。

戦争はかなり激しいものになっていったのですが、これは南部流の生き方を守ろうとした南軍の高い士気が原因にあったとされます。

しかし、戦中の1863年には当時の大統領・リンカーンがかの有名な「奴隷解放宣言」を発表し、1865年に南部が降参する形で終結を迎えました。

リンカーン 写真リンカーン(出典:Wikipedia)

これは、南部側の立場から考えると「合衆国に対して起こした独立戦争」ともとれるもので、彼らの独立戦争はもろくも敗れ去ったのです。

以上で見てきた説明からも、本作が「奴隷制度」「黒人奴隷」といった問題とかなり密接にかかわっていることがわかるでしょう。加えて、本作の主人公であるスカーレット・オハラは「奴隷を使って富をたくわえていた南部の農園に生まれた娘」です。

そのため、本作は「南部の白人」目線で物語が進んでいき、作中で「奴隷制度の存在と黒人差別を肯定している」ような描写がなされます。つまりこれが、「Black Lives Matter」で批判される要因なのです。

しかし、当時は人種差別に対して社会が寛容でした。それゆえ、本作は出版されるや否や大ベストセラーになります。

が、当然ながら過激な内容と残酷な描写には不快感や拒絶反応を示す読者もいました。特に、黒人からは「奴隷制度を正当化し南部白人を美化し過ぎている」として、運動以前から批判され続けてきました。

本作に対する批判の是非については、あえて言及しません。ただ、少なくとも「批判されるだけの理由がある」というのは間違いないでしょう。

タイトルで「南部の豊かな暮らしが消え去ったこと」を象徴している

本作の原題は『Gone with the Wind』(風と一緒に消え去ってしまった)で、非常に秀逸なタイトルが付けられていると高く評価されています。

風と共に去りぬ 初版初版の表紙(出典:Wikipedia)

作者のミッチェルは戦争を風に例え、「当時絶頂にあった南部の貴族的暮らしや文化、伝統、そして彼らの精神が消え去ってしまった」という意味をタイトルに込めました。

このあたりも、本作が昨今問題視されるゆえんでしょう。

ただ、南北戦争の後に奴隷たちは自由の身となり、選挙権が与えられ、新しい職を求めて南部から北部への大移動が起きたことは事実です。

南部は深刻な働き手不足となり、豊かな生活は一変しました。今なお南部では「南北戦争は北部による侵略戦争」と呼ぶ人がいるほど、人々の記憶に深く刻まれています。

一方、このタイトルはラストシーンでの主人公・スカーレットが大切な人々と別れる様子も表しているといえます。

実のところ南北戦争での死者は50万人近くにも上ります。同戦争によって生活の変化を余儀なくされた人の数ははっきりとは分からず、アメリカ国内が最も混乱に満ちた時期といえましょう。

邦題の『風と共に去りぬ』も直訳ではありますが非常に印象的で、日本語の美しさを感じる素晴らしい訳だと思います。

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ベストセラーになった理由は「当時の不安定な世界情勢」にあり?

本作は、1936年の初版からベストセラーとなりました。以後も増版され続け、当時は「聖書に次ぐ売れ行きだ」とまでいわれていたほど。

確かに本作が物語として人々を惹き付ける理由は分かりますが、ここまで人気が爆発した要因には何があったのでしょうか。

その裏には、出版当時の時代背景が関係していると考えられています。第一次世界大戦の終戦後、アメリカは「ロスト・ジェネレーション」と呼ばれた若者たちは、戦争から解放された喜びから文字通り「バカ騒ぎ」を続けました。

同時に優れた文学者も多く輩出され、その代表例といえるスコット・フィッツジェラルドの描いた『華麗なるギャツビー』という作品に当時の様子が詳しく描かれています。

が、1929年に勃発した世界恐慌の影響により狂乱の20年代は幕を閉じ、混乱した経済は社会不安を引き起こしました。

そして1939年になると第二次世界大戦が始まり、人々はまた深い苦しみの中に投げ出されたのです。

傷付きながらそれでも生きていかねばならない。そんな時代に戦争を生き抜いて自らの力でお金を稼ぎ、家族や家を守り抜いたスカーレットの姿を、当時の人々は自らに重ね合わせて読んだのではないでしょうか。

実際、ヴィヴィアン・リーとクラーク・ゲーブル主演で公開された映画がアメリカでは1939年に、日本では高度成長期にあたる1952年に公開されました。

ヴィヴィアン・リー 写真スカーレット・オハラを演じたヴィヴィアン・リー(出典:Wikipedia)

本作が大衆の心を掴んだのはスカーレットのたくましい精神やその生命力が深い感銘と憧れを与えたからこそ生まれたもので、その中には「救い」があったのだと想像せずにはいられません。

※続きは次のページへ!

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