第一次世界大戦後のアメリカ社会は、空前の好景気に沸いていました。
この時代に生きた若者は後に「ロストジェネレーション(失われた世代)」と呼ばれ、以後様々な困難に遭遇していくことになります。
そんな時代には、文学の世界においても傑作と呼ぶにふさわしい作品が数多く世に送り出されました。
今回の記事では、「ロストジェネレーション文学」を代表し、日本においても村上春樹が愛したことで知られるスコット・フィッツジェラルドの小説『グレート・ギャツビー(華麗なるギャツビー)』を紹介していきます。
なお、この記事では1ページ目にあらすじや作品情報・トリビアといった解説文を、2ページ目は書評(ネタバレ多め)を掲載していますので、部分ごとに読んでいただいても大丈夫です。
グレート・ギャツビーの作品情報
まず、本作に関する基本的な作品情報を整理しておきます。
作者 | スコット・フィッツジェラルド |
---|---|
執筆年 | 1925年 |
執筆国 | アメリカ |
言語 | 英語 |
ジャンル | 恋愛小説 |
読解難度 | 読みやすい |
電子書籍化 | 〇 |
青空文庫 | × |
Kindle Unlimited読み放題 | 〇 |
グレート・ギャツビーの簡単なあらすじ
狂乱の時代を生きた主人公のニックは、証券会社での労働を口実にニューヨーク郊外のロング・アイランドへと住居を移した。
彼の住む家の隣には豪華絢爛な住宅が佇んでおり、そこでは正体不明の大富豪ジェイ・ギャツビーによるパーティーが毎晩のように繰り広げられている。
このことに興味を持ったニックは、ギャツビーからの招待を快諾し隣家へと足を運んだ。
若い男女が狂乱の騒ぎを繰り広げる中、彼は招かれている客人たちが誰一人としてギャツビーの素性を知らないということを認識した。
俄然ギャツビーの正体に興味を持ったニックは、彼と顔を合わせるとしだいに仲を深めていくのだった。
二人が親しくなったある日。ニックはギャツビーの秘めた思いを知ることになる。
こんな人に読んでほしい
・村上春樹が好き
・バブルの時代を生き抜いてきた
・1920年代(戦間期)のアメリカ社会を知りたい
グレート・ギャツビーの時代背景・登場人物の解説
スコット・フィッツジェラルド(出典:Wikipedia)
この作品は近代に入ってから執筆された小説ということもあり、このサイトで紹介する作品の中ではトップクラスに読みやすい文章で構成されているといえます。
そのため、普段のように読み方の解説をするというよりは、基本的な時代背景や作品評価の変遷を解説するという構成を採用しました。
狂乱の時代を克明に描き出した『狂乱の小説』
まず、冒頭でも述べたように本作が執筆された1925年は「ロストジェネレーション」と呼ばれた若者たちが社会で花開いた時期でありました。
そのため、当時その世代のど真ん中にいたフィッツジェラルドが描いた小説ということで、言うまでもなく時代の影響を色濃く受けています。
一番分かりやすいのは、本作で描かれる大規模なパーティーに象徴される「狂乱」の要素でしょうか。
本作のキーマンとなるジェイ・ギャツビーは、正体不明の大金持ちとして信じられないほど豪華な邸宅を所有し、その地で毎晩のようにパーティーを開いています。
ただ、その「パーティー」は一般的なそれと大きく異なり、若きセレブ達が酒を浴びるように飲んでは大暴れするといった「下品」なものなのです。
これは決してフィクションに限定された出来事ではなく、現実でも似たようなイベントが頻発していました。
そのため、この時代は別名「狂乱の時代」と呼ばれ、恐らくアメリカ史上で最も「狂っていた」時代と定義できるでしょう。
ちなみに、この「狂乱」に終止符が打たれたのは、1929年にウォール街で勃発した株価の暴落に端を発する「世界恐慌」の存在です。
このあたりからもよくわかるように、日本における「バブルの時代」と非常に似通った点が多いのも特徴でしょう。
今でもバブルの記憶があるという方は少なくないはずで、そういった意味では日本人としても身近に感じやすい物語かもしれません。
ギャツビーが愛したデイジーは、作者の妻ゼルダがモデルか
作中でギャツビーが愛した女性のゼルダは、作者のフィッツジェラルドが妻としたゼルダ・フィッツジェラルドがモデルであると言われます。
ゼルダ・フィッツジェラルド(出典:Wikipedia)
ネタバレになってしまうので詳しくは書けませんが、デイジーの「悪女」っぷりは史実のゼルダと非常によく似ているのです。
というより、私が知る限りでは史実のゼルダのほうが物語よりもずっと凶悪にも思えます。
異常な奔放さと自尊心が目立つ女性であり、さらに夫婦はお互いがアルコールを水と見まがうほどに摂取する悪癖があったため、彼らの間にはまさしく「グレート・ギャツビー」の世界がそこには展開されていたのです。
しかし、彼らの春は長く続きませんでした。
猛烈な浪費から生じる借金やスコットの執筆業に関する行き詰まりはアルコール依存症や精神病の発症へと繋がり、「狂乱の時代」が終焉するとともに二人も社会から忘れ去られていったのです。
こうして再起の時をみないままスコットがアルコール依存症からくる心臓麻痺で亡くなると、ゼルダも精神病院の火災に巻き込まれて亡くなってしまいました。
まさしく、「時代の象徴」と呼ぶべき夫婦であったのです。
グレート・ギャツビーが評価されたのはスコットの死後
この『グレート・ギャツビー』という小説は、出版当時広く社会に受け入れられたとは言い難い側面があります。
実際、同年代のヘミングウェイなどが出版した本と比べると売れ行きの低調さは明らかであり、当時のアメリカでは「単なる流行小説」の一種として受け止められていました。
その結果、フィッツジェラルドの名が時代から消えると作品もまた姿を消し、彼は本作の存在を収入につなげることができないまま借金に苦しんだのです。
晩年には愛人の収入を頼りにするほど困窮していたことからも、その評価が芳しくなかったことがよくわかります。
しかし、1940年のスコット死去から数十年が経過した1960年代以降になると本作がふたたび注目されはじめ、さらに「歴史的な作品だ」と見なされるようにもなっていったのです。
この原因については研究などでもいくつかの点が指摘されていますが、まとめてみると「アメリカが最も栄えていた時代」が「過去の歴史」として憧れのまなざしをもって見つめられるようになったことが大きいということになるようでした。
その結果、今では「20世紀を代表する文学」「アメリカを象徴する文学」として高く評価されるようになり、歴史上の偉大な作品をランク付けする際には必ずと言っていいほど顔をのぞかせるまでになっています。
実際に面白い作品であることは間違いないので、そもそも過去の評価が不当である、というのが私の見解ですね。
村上春樹が愛したことで日本における知名度も高い
日本における『グレート・ギャツビー』およびフィッツジェラルド受容の歴史はそれほど古くなく、一般に広く普及したのは村上春樹の功績が大きいとされています。
村上春樹(出典:Amazon)
彼は自書で『グレート・ギャツビー』『カラマーゾフの兄弟』『長いお別れ』の三冊を最も影響を受けた作品として語っているように、この作品随一のファンとしても有名です。
この村上が手掛けた大ヒット作『ノルウェイの森』の作中にも本作の名が登場しており、アメリカの作家としては屈指の知名度を誇るようになりました。
また、翻訳家としても活躍する彼は『グレート・ギャツビー』の訳書を出版するにとどまらず、フィッツジェラルドの著作を数多く翻訳していることでも知られています。
ただし、こと『グレート・ギャツビー』の訳書に関しては、「村上春樹の作品としては優れている」一方で、本作の訳者として著名な野崎孝氏のものに比べると「翻訳書としてはやや劣る面がある」というのが事実です。
そのため、いわゆる「ハルキスト」でもない限りは、まず野崎訳の本を先んじて読むべきでしょう。
やはり、「翻訳のプロ」らしく原作を尊重した訳がなされているからです。
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