本日はイギリスの大作家チャールズ・ディケンズが19世紀に執筆した歴史的小説『大いなる遺産』のあらすじ・感想を書いていきたいと思います。
本作は執筆されてから既に150年以上が経過していますが、今でも本国イギリスをはじめとする世界中の国家で愛される小説。
ここでは、時代を超えて愛される本作の魅力を伝えていければ幸いです。
それでは、さっそく本編に参りましょう。
『大いなる遺産』の基本情報
まず、本作に関する基本的な作品情報を整理しておきます。
作者 | チャールズ・ディケンズ |
---|---|
執筆年 | 1861年 |
執筆国 | イギリス |
言語 | 英語 |
ジャンル | 冒険小説 |
読解難度 | 読みやすい |
電子書籍化 | 〇 |
青空文庫 | × |
Kindle Unlimited読み放題 | × |
『大いなる遺産』の簡単なあらすじ
イギリスの片田舎に住む少年ピップは、養育を担当する姉ミセス・ガーチャリーとその夫である鍛冶屋のジョーと三人で暮らしていた。
決して裕福とはいえず、また上品でもない一家であったが、学はなくとも人間的魅力にあふれたジョーとの友情もあり、大きな不満のない生活を送っていた。
しかし、町の離れに住む朽ち果てた大金持ちミス・ハヴィシャムの邸宅に招かれ、そこでハヴィシャムの養女エステラに出会う。
そこでエステラはピップの振舞いが下品であり、紳士的でないことをなじる。
しかしながらエステラは底知れぬ魅力をもった女性であり、やがてピップは彼女に心惹かれるようになった。
そして、ピップはエステラにふさわしい人間になる、つまりイギリス流に言えば「紳士」になることを誓う。
すると、今まではそれほど不満に感じていなかった「品のない」家族の振舞いがとたんに我慢ならないものと感じられるようになった。
それからというもの、ピップにとっての周りの世界はその輝きを失っていった。
そんな折、突然ロンドンから弁護士を名乗る男ジャガーズがピップのもとを訪れる。
ジャガーズ曰く、ピップには成人後に「大いなる遺産」を得る権利があり、紳士としての振舞いを学ぶためにロンドンへ移住することを勧められる。
当然強い興味を示すピップであったが、ジャガーズはあくまで冷静であった。
その理由は、ジャガーズはあくまで代理人にすぎず、財産の持ち主はその正体を明かすことを良しとしなかったために彼が派遣されていたからだ。
この誘いに対し、ピップは二つ返事でロンドン行きを承諾する。
ジョーとピップが成長する間に暴漢に襲われ、働くことができない姉ガーチャリー、さらにはガーチャリーの代理の労働力として家政婦を務めていたビディを村へと残し、そそくさとロンドンへと旅立つのであった。
この決断が、ピップの運命を大きく狂わせることになるとは知らずに…。
『大いなる遺産』の作者、時代背景の解説
出典:Wikipedia
まず、『大いなる遺産』の感想を語るためには、ディケンズの生涯を語らねばなりません。
なぜなら、先にも触れたように『大いなる遺産』は、彼の自伝的小説という性格をもっているからです。
ピップ少年の生き様は、ディケンズ本人の経験に基づいている
ディケンズの生涯については、小説に関係する部分を『日本大百科全書』より引用して紹介します。
イギリスの小説家。2月7日、海軍経理局勤務の下級官吏の長男として南イギリスの軍港ポーツマス郊外に生まれ、のちロンドンに移住した。
父のジョンは好人物だが金に締まりがなく、借財の不払いで投獄されたこともある。
そのためディケンズは少年時代から貧乏の苦しみをなめさせられ、学校にもほとんど通わせてもらえず、12歳から町工場に働きに出された。
資本主義の勃興(ぼっこう)期にあった19世紀前半のイギリスの大都会では、繁栄の裏に恐ろしい貧困と非人道的な労働(年少者の酷使など)というひずみがみられた。
こうした社会の矛盾、不正を肌で体験したディケンズは、貧乏の淵(ふち)から抜け出そうと自力で必死の努力を重ね、独学で勉強しながら15歳で弁護士事務所の下働き、翌年裁判所の速記者となり、やがて新聞記者となって議会の記事や、風俗の見聞スケッチを書くようになった。
1833年に短編をある雑誌に投稿して採用されたのに力を得て、引き続き短編、小品などをあちこちの雑誌類に発表、これらを集めた『ボズのスケッチ集』が36年に出版されて、24歳の新進作家が華々しく文壇にデビューした。
出典:コトバンク
『大いなる遺産』を読んだことがある方なら「あの部分はこの経験に由来しているのか」とピンとくるかもしれません。
そう、片田舎での粗末な生活や、その「みすぼらしさ」に耐えかねてロンドンへと移住するあたりは、おそらく彼の実体験をそのまま反映したものです。
読んでいても実にリアリティを感じる描写が多かったので、それほど驚きはないかもしれませんね。
ただし、エステラという魔性の女性に出会ったという点はフィクションだと思います。
ディケンズの生きた「産業革命の時代」が垣間見える
上記で引用したディケンズの生涯に関する一節でもチラッと登場しましたが、彼が生きた時代はまさしく「産業革命」が勃興した歴史上でも極めて重要なひと時でした。
ロンドンでは蒸気機関をはじめとする多種多様な発明がなされ、それがまず産業界に導入されます。
結果として人々の生産活動が超効率化されると同時に、文字通り「産業」の在り方を大きく変えました。
これまでのような農業主体の産業構造が変化し、大規模な工場が出現して「資本家と労働者」という現代に直結する概念が誕生し始めたのもこの時期。
ディケンズ少年は、こうした時代の移り変わりを肌で感じながら成長したことでしょう。
そして彼も資本主義社会で成功し、やがて売れっ子作家として愛されるようになりました。
しかし、人々に富をもたらしたはずの工業化は、やがて「拝金主義(お金が第一)」という負の思想を生み出してしまいました。ディケンズはこのことを受け、本作内の構造として「二つの世界」を採用します。
一つは、ピップが生まれ育った「田舎」の世界。ここは彼が少年時代感じたように、粗野で下品な側面も確かにあったでしょう。
もう一つは、ピップがあこがれをもって飛び出した「都会」の世界。ここもやはり彼が少年時代夢見たように、洗練されて上品な世界でありました。
が、彼は大金持ちとなって都会暮らしを謳歌するうちに、上記の優劣が絶対のものでもない、ということに気づかされるのです。
見下していた「田舎」の世界には友人ジョーをはじめとする良い意味での素朴さがあり、一方で「都会」の世界には金欲にまみれたがめつさが確かに存在する。
ディケンズが実際に強く感じたであろう問題意識が、作中にこうして反映されています。
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