『論語』の読み方や内容の解説!孔子の教えを弟子が記し、渋沢栄一にも影響を与えた「子曰く」でお馴染みの作品

論語 アイキャッチ 中国古代文学
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『論語』の読み方や感想

ここからは、本作についての見どころや、少し残念なところなどにも触れつつ、私自身の読み方を紹介します。

女性軽視や「礼」の過度な重視という側面もある

抜群の知名度を誇る本作ですが、内容に対する批判も様々あります。例えば「軍国主義につながる」「女性蔑視だ」というもの。実際、このような側面も否定はできないのは事実です。

さらには、孔子の教えに対する最も多い批判として、「過剰に『礼(礼儀作法)』を重視している」とみる向きもあるようです。

例えば「父が亡くなって三年は父の道を改めないことが孝行である」(里仁篇第20章)など、正直かなり堅苦しく感じます。「礼」を重んじるあまり、現代からすれば過剰に形式にこだわっているように見え、息がつまりそう。

この点については、孔子の生きていた時代から既に批判する者もありました。例えば同時代の思想家で諸子百家の一人、道家の老子です。

老子 絵画老子(出典:Wikipedia)

孔子が「礼」を重視して「上司や先輩には礼儀正しくするのじゃ」と言えば、老子は「形だけ繕っても意味がなかろう。逆に形にこだわることが真心を失くさせてしまうのじゃ」とやり返す。

老子は自然な姿を重視した思想家です。自然に逆らい無理をすることが、世の中の問題の源だと考えました。老子からすれば孔子の「礼」は自然に逆らい無理をしているように見えたことでしょう。

親しい人が亡くなったとき「どのような葬式をするのか」にこだわるより「真心から涙を流す」のが、人間の自然な姿だと言うわけです。

なるほど、こうしてみると老子の言うことも「もっともだ」と思えますね。

ただ、孔子を弁護すれば、彼の言う「礼」も形だけに固執していたわけではないよう。孔子の真の教えは「真心は最も大事だ。ただし、真心があるからといって、礼を全く省みないのも良くないぞ」というところかと思います。

このあたりについてはどちらの主張も一理あり、好みの問題かもしれません。

正しさの勝負をつけるより、これをきっかけに考えを深めることも『論語』を読む醍醐味の一つでしょう。

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本作の表現する「中庸さの重視」は参考になる

様々な批判もありつつ、私自身はそれでいてやはり『論語』は偉大な書物だとも感じています。

その理由の一つに、本作が大変にバランス感覚の優れた書物であるという点が挙げられます。本文の中で「中庸(偏らないこと)」という言葉を用い「中庸は最高の道徳的価値だ」(雍也篇第29章)と言い切っていることからも、本作の中立性は読み取れるでしょう。

しかし、「中庸」であることはなぜいいことなのか。

簡単に言ってしまえば、「中庸である」ことは、すなわち「柔軟な考えを持っている」ことにもなるからです。

例えば「ウソをつくのは良くない」とか「時間は守るべきだ」というのは、多くの人が納得できる基本的な教えでしょう。ただ、これを「絶対に守るべきだ!」とするとどうでしょうか。

誰かを守るために人を傷つけない程度のウソをつく。見知らぬおばあちゃんが道で迷って困っていたので、助けてあげたら待ち合わせに遅れてしまった。

以上の例は、教えを絶対視するだけが正義ではないことを示しています。「教えをちょっと破ってしまったけど、結果的により正しいことができた」という場面もありますし。

このような場合、孔子は「何がなんでもこれが正しい!」と言って教えを押し付けはしませんでした。

むしろ、「どちらかに偏るのではなく、臨機応変であるのがよい」という考え方を見せてくれるのです。

宗教によっては「たとえいかなる場合もこの教えを守らなければお前は地獄に落ちる!」と言い切ってしまうものもあるので、彼の教えは大変マイルド。

孔子の現実的で柔軟な感覚も、多くの人に読み続けられているポイントかもしれません。

孔子の教えは意外とコロコロ変わる?

孔子はあるとき、弟子の一人に「教えを受けたらすぐに実行した方が良いでしょうか?」と質問されました。そして、この弟子に「親に相談してからにせよ」と教えます。

ところが、別の弟子から同じ質問をされると、今度は「すぐに実行せよ」と答えるのです。

「あれ?もしかして、人によって答えを変えているの?」と思われるでしょうか。

実はそうなんです。孔子は人によって答え方を工夫し、場合によっては真反対の教えを説くこともあったようです。

上の例について、孔子は次のように説明しています。「最初の弟子は血気にはやるから、手綱をしめてやり、後の弟子には引っ込み思案だから、尻を叩いたのだ」と。

うーん、お見事です!

よく人を観察し、その人に合った絶妙な教えを説く。理想の上司や教師の姿と言っても良さそうですね。

作品を通じて、孔子の表現する「思考の柔軟性」は大いに評価できるポイントだと思います。

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まとめ

本作については「堅苦しい」「古臭い」といったイメージもあります。しかし、実際に書かれていることは現代でも十分に通用するもので、その教えは決して色あせていません。

また、単に道徳を机上で説いているのではなく、学び方や処世術といった実践的な教えも豊富で、経営者やビジネスパーソンの間でも広く読まれています。

もし「学校の授業でしか習ってないよ」ということでしたら、ぜひ一度触れてみることをおススメします!

【参考文献】

・中国の思想Ⅸ 論語 (久米旺生訳/徳間書店/1996年)

・『論語』と孔子の生涯 (影山輝國著/中央公論新社/2016年)

・孔子・老子・釈迦「三聖会談」(諸橋轍次/講談社学術文庫/1982年)

・渋沢栄一の「論語講義」 (渋沢栄一著/平凡社/2010年)

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