魯迅の描く短編「狂人日記」「阿Q正伝」「故郷」のあらすじや感想、解説

魯迅短編集 表紙中国近現代文学
出典:Amazon
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大戦前における中国屈指の「知日派」として知られていた魯迅。

今回は、彼が描いた小説魯迅短編集のあらすじ・感想を書いていきます。

なお、収録短編数がかなり多かったので、有名どころである「狂人日記」「阿Q正伝」「故郷」に絞って紹介していきます。

念のため、ネタバレ注意です(それほど重大なトリックはありませんが)。

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狂人日記の簡単なあらすじ・解説

この小説は、一言でいってしまえば主人公の「私」が、周囲の人々を人食いであると思い込み、それを恐れて狂っていくという内容です。

実際には、周囲の人が人食いをするシーンはなく、「私」は「狂人」であると周囲には考えられていました。

と、書いてきましたが、一見すると内容はこれだけしか読み取れません

初見の際、私が「えっ、これで終わり?」と思ったのも無理がないと思います。

もちろん文章が下手だというつもりはないのですが、文体に特別人を惹きつけるほどの力までは感じられなかったため、どうして『狂人日記』がこれほど読み継がれてきたのか、不思議でなりませんでした。

狂人日記の歴史的意義

魯迅 肖像画出典:wikipedia

そこで作品の解説などを読んだところ、そもそも清朝末期~中華民国の時代に蔓延していた「食人文化」との関連があるようでした。

当時の絶対的といっても過言ではなかった儒教的価値観のもとにおいては、自身の「肉」を食べさせることで、病気を治すといったニュースが好意的に報道されていたという背景が、そもそもの出発点であると考えられているようです。

こうした背景を知ると、ようやく『狂人日記』の歴史的意義がみえてきます。日本に留学し、西洋的な医療を学ぶ機会を得ていたインテリの魯迅にとっては、まさしく「狂気」をはらんでいるようにさえ感じられたでしょう。

そこで、絶対的であった儒教的価値観を批判的に描くことを決意したのでしょう。そういった意味では、中国文学として重要な作品であるという位置づけは正しいものです。

ただ、個人的には歴史的に意義のある小説と、現代でも読みごたえのある小説というのは、性質が違うものであると考えています。

つまり、現代での『狂人日記』に娯楽小説としての価値があるのか、というのは微妙な問題といえます。

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阿Q正伝の簡単なあらすじ・解説

この小説は、阿Qという人物の生涯を記した、文字通りの「正伝」です。

小さな村に生きる、阿Qという社会の最底辺に属している人物を主人公として、無知蒙味にもかかわらず根拠のない自信をもちあわせたその姿を批判的に描き出しているのが特徴です。

これに関しては、読んでいてすぐに何を批判的に描いているのかがピンときました。阿Qの姿は、そのままに無知で自尊心の強い、魯迅の思い描いた当時の中国国民の姿なのでしょう。

特に印象的な場面は、魯迅が意味もわかっていないのに革命に乗じて、無実の罪で処刑される一連の流れでしょう。その様子は滑稽でもあり、同時に悲しみを感じるものでもありました。

ただ、現代でもこういう人って決して少なくないと思います。処刑されるかどうかは別として、とりあえず勢いのある権威に乗じて深く考えずにそれを利用する。

ただ、その目的や意義は全く理解していないので、権力の中枢にいる人間には相手にされることもありません。

このように、非常に普遍的なテーマが描かれており、読みごたえのある作品だと感じました。

故郷の簡単なあらすじ・解説

この作品は、「私」が生家を引き払うべく、20年ぶりに故郷の土地へと舞い戻った際、その変わりように感じた悲嘆を描いています。

主人公の思い出の中では美しかった故郷は、土地も人も貧しく変わり果てていました。

特に、少年時代の友人であった閏土と再会した際に、「ご主人様」と呼ばれるシーンは、その変化を象徴している印象的なものです。

つまり、主人公はある程度社会的に成功を収めていたので、故郷に住む人々とは「違う」立場の人間になってしまったのです。少なくとも、魯迅はそういった体験をしたことがあったのでしょう。

ただ、個人的にそもそも主人公の心の中での故郷は、少年時代のノスタルジーで過剰に美しい姿になっていたのではないかと思います。

自分の少年時代によく行っていた場所は、その実像よりも雄大で美しく記憶に残っているような気がします。

もちろん、実際に衰えている部分もあったのでしょうが、実像よりもさらに美しく「成長」していた心の中の故郷という存在に、大きく影響されていたのではないかと思うのです。

皆さんも、そういった経験があるのではないでしょうか。今回取り上げた三作品のなかでは、一番好みの小説といえます。

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まとめ

今回は魯迅の短編集から、三作品を抜粋して紹介しましたが、いかがだったでしょうか。

全体として、魯迅の小説は強烈な政治的思想を感じるものがほとんどでした。

まあ、そもそも作家を志したキッカケが啓蒙思想からきているのものであり、それも当然ではあります。

そのため、例えば中国の近現代を良く知りたい、あるいは近代の中国思想について迫りたいという場合には、魯迅を外してそれらを語ることはできないでしょう。

ただ、読み手にそもそもの儒教知識と、当時の中国社会の背景への理解を要求してくる作品ばかりなのも事実なので、現代では読み手を選ぶ作家であることは間違いありません。

文体そのものは日本への留学経験があるためか、明治・大正期の日本作家と似たような印象を感じたため、読んでいて読みづらさを感じることありませんでした。

完成度も高く、中国の荒廃した様子を描くには最適と思われる素朴な文体で書かれています。

しかし、素朴であるがゆえに、文章に「惚れる」という性質の文体ではないので、悪く言えばつまらない文体であるともいえます。ここは、正直好みの問題だと思います。

人を選ぶ小説が多いのは事実ですが、傑作の大半は短編という事実もあります。

そのため、最悪相性が悪くてもさっと読めるので、気になった方はまず読んでみてもいいのではないでしょうか。

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