『分別と多感』のあらすじや感想、内容の解説!姉妹の「失恋」を描いたオースティンのデビュー作

分別と多感 アイキャッチイギリス文学
スポンサーリンク
スポンサーリンク

分別と多感の感想・考察(ネタバレ有)

ここからは、本作に関する考察を含めた感想を述べていきたいと思います。なお、記事の構成上多くのネタバレを含みますので、その点はご了承ください。

対照的な姉妹の性格は、まさしく「分別と多感」である

本作のタイトル『分別と多感』は、まさしくヒロインとなる姉妹の性格を象徴しているように思えます。

知性があり、辛抱強い姉・エリナーは「分別」の持った人物である一方、感受性が強く愛情に溢れる人物だが傷つきやすい妹・マリアンは「多感」な心の持ち主です。

エリナーの思慮深く優しい妹想いの性質が災いして、エリナーの心はマリアンへの心配で一杯です。よって、エリナーが心配そうに見つめるマリアンの恋愛がメインとなって物語は進行していきます。

君の心の庭に忍耐を植えよ。その根は苦くとも、その実は甘い

という、忍耐について説いたオースティンの言葉はあまりに有名です。オースティンは忍耐や知性、そして分別を大切にしていました。

実際、オースティンの作品でエリナーほど信頼がおける人物はいないと感じます。が、エリナーは分別を重んじるあまり、自身の感情を押し殺すきらいがあります。それもマリアンが大袈裟に泣いたり笑ったりと忙しくしているすぐ側でです。

反対に作中でマリアンは「感情の抑制など絶対に覚えたくない」と、考えているほどです。

実に対照的な姉妹ではあるのですが、お互いを尊重し、深く愛し合っているので、読者としてはこの姉妹を自然と応援したくなります。

このあたり、オースティンは心理描写が巧みで、マリアンが「多感」を乗り越えて「分別」を得ていく過程を分かりやすく描いていると評価できます。

が、読者がエリナーから受ける印象が徐々に変化していくという事実も見逃せません。エリナーはエドワードとルーシーの婚約によって密かに傷付いていましたが、ウィロビーへの失恋で病気まで引き起こすマリアンを見て変わっていきます。

印象的なのは、エドワードの婚約破棄を知り、人目を憚らず部屋を飛び出して泣き出す場面です。これは、エリナーが初めて人前で感情を晒すことが出来たことを意味します。

以上のような、姉妹それぞれの精神的な成長は本作最大の見どころと言えましょう。また「姉妹とは良い影響を与え合うもの」とオースティンが考えていたことも強く伝わってきます。

スポンサーリンク

作者が「失恋」に重きを置いて執筆した小説

オースティンは恋愛、結婚をテーマに小説を描いていますが、本作では「姉妹の失恋」に物語の軸を置いています。

彼女の言葉に、

女の子は結婚が何よりも好きよ、だけど少し失恋するのも悪くないと思う

といったものがあります。

作中では、マリアンは美男子・ウィロビーと劇的な出会いを果たし、恋に落ちました。彼とはダンスや音楽、本の趣味までがぴたりと一致しており、隠し事を良しとしない奔放な性格まで相似でした。恋愛小説として見れば、ウィロビーは理想的な相手なわけです。

が、ウィロビーへの失恋を経験したからこそ、出会った時のマリアンや読者からの評価が「まるで老たる独身男」で、好意的に見られていなかったブランドンの紳士的な態度の素晴らしさに気づいたのも事実。

エリナーにしても、エドワードとの恋を一度諦めたからこそ、彼の本質を知ったうえで誠実な性格により惹かれたのだと思います。

こうした姉妹の経験と、先に述べたオースティンの言葉からも分かるように、本作でオースティンが描きたかったことは「失恋から得られる教訓」ではないかと感じるのです。

恋を諦めたり葛藤すること、さらに言えば失恋を乗り越えることはオースティン自身も経験しています。そして、この事を裏付けるかのように、本作ではエドワードのエリナーへのプロポーズやマリアンが結婚を決める詳細な記述はほどんどなく、終盤で結論を淡々と説明しているだけです。

オースティンにしてみれば、恋をしたり失恋したりして再生すること、婚約までのプロセスこそがドラマチックなのだと言いたいのでしょう。

姉妹がそれぞれ三角関係の渦中に置かれている状況ですが、作品の雰囲気としては決して昼ドラのようにジメジメしたものではなく、極めて上品で優雅なオースティンらしい世界観が広がっているのも魅力的ですね。

当時の女性たちによる交流の難しさがリアルに描かれている

オースティンの小説にはお決まりの展開やキャラクターが登場するのですが、その一つが「ヒロインに対してイジワルな女性の存在」です。

高慢と偏見でいえばレディ・キャサリンでしょうし、本作でいえば兄嫁のファニーでしょう。

男女の性別だけで傾向をくくるのは差別を助長しかねないので慎重になるべきですが、とはいえ現代でも「女性の会話には本音と建前がある」という風潮があるのは間違いありません。

加えて、本作の背景にあるのは女性の「価値」が家柄や父夫の資産で判断された時代であり、本人の人柄と関係なしに見下されることや、お付き合いに支障が出ることがしばしばあったのだと推測出来ます。

実際、オースティンは親類が多かったので、余計に交流の機会が多かったはずです。強欲なファニーや、エドワードの婚約者だったルーシーの底意地の悪さには、当時の中流階級の女性たちの交流の難しさが作者の観察力によってリアルに投影されているのではないでしょうか。

本作、ひいてはオースティンの作品には「女性の幸せとは何か」というメッセージが存在しているように思えてなりません。

自分の力で人生を切り開くことが容易に叶わない時代ながら、オースティンは「自分らしくいることこそが幸せである」と考えていたのだと思います。

だからこそオースティンは、エリナーにしてもマリアンにしても、最終的に「ありのままの自分を受け入れてくれる人と結婚する」という結末を用意したのではないでしょうか。

時代柄を考えれば非常に先進的な小説であり、現代のフェミニズムにも通じる思想を感じ取ることができますね。

スポンサーリンク

まとめ

ここまで、オースティンの『分別と多感』を紹介してきました。

大幅に加筆されたとはいえ、本作のプロットが出来たのはオースティン19歳の時ということには驚かされますね。エリナー、マリアンのどちらに共感して読み進められるかということも本作の楽しみの一つです。

オースティンの小説を読んだことがある方にも、初めてという方にもお勧め出来る作品です。ぜひ一度手にとって、19世期イギリスの田園を舞台にしたオースティンらしい恋愛小説を楽しんで頂きたいです。

【参考文献】

・分別と多感(中野康司 訳、ちくま文庫、2007年版)
・ジェーンオースティンの手紙(新井潤美 編訳、岩波文庫、2004年版)

コメント