川端康成の小説『雪国』のあらすじや感想、読み方の解説!二人の女性が「鏡写し」にされた日本文学の金字塔

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日本で初めてノーベル文学賞を受賞したことで名高い作家、川端康成。

川端の数多い著作の中でも、特に『雪国』「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」という書き出しと相まって、彼の代表作として有名です。

しかし、「歴史的な小説なのは知っているけど、何だか退屈そう……」という先入観から、知っていても読んだことはない方も多いのではないでしょうか。

けれども、川端康成は一見地味な作家に見えて、実はスリリングな作家なのです。この『雪国』もしそうした作品の一つ。

本記事で、『雪国』の緊張感に満ちた面白さを伝えられれば幸いです。

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雪国の作品情報

作者 川端康成
執筆年 1935年〜1948年
執筆国 日本
言語 日本語
ジャンル 長篇小説
読解難度 読みやすい
電子書籍化
青空文庫 ×
Kindle Unlimited読み放題 ×

雪国の簡単なあらすじ

「無為徒食(何もせず、ただいたずらに時間を過ごすこと)」の人として東京に生きる島村は、かつて訪れたことのある雪国へもう一度向かった。

そんな彼は、雪国へ向かう汽車のなかで窓に写った娘の姿に強く心を惹かれる。その少女の名前は葉子といった。

雪国に到着したのち、島村は馴染みの芸者である駒子と幾たびも逢瀬を重ねた。話を聞く限り、駒子が芸者として稼ぐのは行男という男の治療費のためらしい。

一方、葉子は行男のそばで彼を恋い慕っている様子だった。静かな雪国のなかで、女たちの感情はゆっくりと変化してゆく。

島村が東京に戻ろうとしたとき、付き添いの駒子に「行男の危篤」葉子が知らせに来るのだが——。

こんな人に読んでほしい

・静かな世界に浸りたい人

・変わってゆくものに美を感じる人

・今の生活に疲れている人

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雪国の舞台や制作過程、冒頭文の解説

完成までにはかなりの制作期間がかかった

『雪国』はそれほど長い作品ではありません。

しかしながら、私たちが今読んでいる本作が完成するまでは、長い時間がかかったことをご存じでしょうか。

そこで、以下では川端の著作を時系列とともに見ていきましょう。

1935年(昭和10年)から、川端は以下のように連作短編を発表してゆきます(『』内が作品名)

1935年1月:『夕景色の鏡』(文藝春秋)
同月:『白い朝の鏡』(改造)
11月:『物語』(日本評論)
12月:『徒労』(日本評論)
1936年8月:『萱の花』(中央公論)
10月:『火の枕』(文藝春秋)
1937年5月『手毬歌』(改造)

1937年6月に、これらの短編小説に新稿をプラスする形で生まれたのが『雪国』という作品でした(刊行は創元社)。つまり、本作ははじめから長編小説として世に出たわけではなく、短編小説をつなぎ合わせる形で長編小説になった作品だったのです。

しかし、物語はこれで完結したわけではありませんでした。

1940年12月:『雪中火事』(公論)
1946年5月:『雪国抄』(晩鐘)
1947年10月:『続雪国』(小説新潮)

これらを合わせてようやく『雪国』シリーズが完結します。この三つの短編を加え、完結版『雪国』が創元社から刊行されたのは、1948年12月のことでした。つまり、川端が36歳から49歳にかけて執筆した作品であることを意味します。

なぜここまで時間がかかったのか、知りようはありません。

しかし、元になった短編と『雪国』を比較すると、たくさんの修整がなされているとわかります。
書き加えられた部分も、削られた箇所もあります。

おそらくなのですが、川端が連作と修整を重ねる中で、小説のモチーフが絞られていったと想像できます。

そのモチーフとして、2ページ目で取り上げる、「徒労」「鏡」「変身」の三つがあるのではないかと思われます。

作品の舞台は新潟の湯沢で、駒子にもモデルがいた?

本作の舞台が「雪国」であることは言うまでもありませんが、そのモデルとなった舞台はほぼ明らかになっています。

彼が参考にしたのは、新潟県の上沢温泉エリアではないかと言われています。

越後湯沢駅 外観現在の湯沢温泉駅

実際、彼は雑誌にて執筆中に同地の「高半旅館」に滞在していたと語っており、恐らくここでの経験を踏まえたのでしょう。

「高半旅館」は建て替えられているので当時の姿そのままではありませんが、湯沢町の「雪国館」という歴史民俗資料館では、湯沢での暮らしを伝える展示とともに本作に関連した展示もなされています。

また、本作で島村が逢瀬を重ねた芸者の駒子にも、実在のモデルがいるとされます。その女性は名を松栄(本名:小高キク)といい、彼が湯沢を訪れた際に会った女性です。

松栄 写真駒子のモデル(松栄)とされる女性(出典:Wikipedia)

ただし、川端は「駒子のモデルが誰かと言えば松栄だが、小説のキャラとは全く異なる」と語っており、あくまで「モデル」に過ぎないということが分かります。

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あまりにも有名な冒頭の「国境」はどう読む?

「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」

このあまりにも有名な冒頭の書き出しですが、後世ではある部分の「読み方」について盛んに議論が交わされています。具体的に言うと、「『国境』をどういった読み方で読むのか」という点です。

普通に考えれば、「こっきょう」と読むのがベターでしょう。もちろん、こちらの読み方も間違いではありません。

しかし、ここは地理学上に日本から外国へ行ったわけではないから「くにざかい」と読むのが正しいのではないか、という説もあります。

とはいえ、本来の「こっきょう」をまたいだわけではなくとも、幻想としての〈雪国〉という異国に赴くと考えれば、やはり「こっきょう」として捉えることもできるかもしれません。

あなたは、どちらの読み方がスッキリ納得できますか?

※続きは次のページへ!

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