ナオミズムには要注意?谷崎潤一郎の小説『痴人の愛』あらすじと感想、内容解説!

痴人の愛 アイキャッチ 日本文学
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人として生まれたからには、誰もが一度は理想の相手と結ばれてみたいと願うもの。

しかし、当然ながらそのような人物と良好な関係を築くのはおろか、出会う事さえも難しいのが現実です。

そこで、人はある解決策を思い浮かべます。

「理想の相手がいないのなら、教育の段階から自分好みの相手を作ってしまえばいいじゃない!」と。

この記事では、そうした思いを抱えた主人公を中心に描かれる谷崎潤一郎の私小説『痴人の愛』について、内容の解説や感想を記していきます。

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痴人の愛の作品情報

まず、本作に関する基本的な作品情報を整理しておきます。

作者 谷崎潤一郎
執筆年 1925年
執筆国 日本
言語 日本語
ジャンル 恋愛小説
読解難度 読みやすい
電子書籍化
青空文庫
Kindle Unlimited読み放題

『痴人の愛』の簡単なあらすじ

「つまりナオミは天地の間に充満して、私を取り巻き、私を苦しめ、私の呻きを聞きながら、それを笑って眺めている悪霊のようなものでした」 独り者の会社員、譲治は日本人離れした美少女ナオミに惚れ込み、立派な女に仕立てやりたいと同居を申し出る。

我儘を許され性的に奔放な娘へ変貌するナオミに失望しながら、その魔性に溺れて人生を捧げる譲治の、狂おしい愛の記録。谷崎の耽美主義が発揮された代表作。

出典:KADOKAWA

本作をざっくり解説してしまうと、恋愛経験のない生真面目男・譲治が、美少女ながら女給に甘んじていたナオミを引き取り、彼女に翻弄されていくというストーリーになっています。

彼は当初ナオミをしつけ理想の女に仕立て上げようとするのですが、よく物語を読み進めていくと「しつけ」をされているのは譲治その人であり、彼女なしには生きられない人生を余儀なくされるのです。

現代の価値観をもってしてもなお「狂気」を感じる作品であり、その魅力が衰えることはありません。

『痴人の愛』に関する登場人物解説・トリビア

谷崎潤一郎 顔写真出典:Wikipedia

本作は、谷崎に言わせると「私小説そのものである」ということです。

私小説ということは、つまり自身の体験に基づく物語であることを意味しているわけで、当然ながら元ネタとなる実在の人物や舞台が存在するでしょう。

この段では、そのあたりの内容を主に解説していければと思います。

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ナオミのモデルは女優の葉山三千子か

ナオミのモデルと目されている人物は、谷崎が最初に妻とした女性・石川千代子の妹で女優の葉山三千子です。

作中では、ナオミの外見を評して「メアリー・ピックフォードを彷彿とさせる」という比喩が用いられています。

このメアリー・ピックフォードという女性は、戦前のサイレント時代に活躍したアメリカの映画女優です。

メアリー・ピックフォード 顔写真
メアリー・ピックフォード(出典:Wikipedia)

当時既にアメリカの映画は日本でも放送されており、活動写真として庶民の間でも広く親しまれていました。

そのため、この比喩は我々の立場で置き換えて「ナタリー・ポートマンに似ている」と同じような用いられ方をしていたと推測できます。

ただ、現代を生きる我々がピックフォードの顔をすぐに思い浮かべることは困難でしょう。

私は個人的に古典映画が好きなので彼女の出演作を見たことはありますが、大半の方は名前を耳にしたことすらないかもしれませんね。

谷崎の奔放な女性関係が本作の元ネタか

さて、上記で示した葉山三千子は、谷崎にとってあくまで義理の妹でした。

しかし、彼女の美しさに魅入られてしまった彼はしだいに心を惹かれていき、それが原因で千代子夫人とは不仲になっていきます。

もっとも、彼女も彼女で谷崎の友人と不倫の関係になり、最終的に谷崎と千代子は離婚することになりました。

ちなみに、谷崎は「三千子が奔放な女だから千代子もそうかと思えば、家庭的でおとなしかったのが気に入らなかった」というようなことを語っています。

まあ、谷崎はこういう男ですから…。

とはいえ、三千子と結ばれたかといえばそういうわけでもなく、このあたりは小説と同じではありません。

その後、谷崎は文芸春秋の記者であった古川丁未子と結婚しますが、4年足らずで再び離婚。

この理由もやはり、「私と性に関する価値観が合わなかった(奔放さが足りない)」というもの。

まあ、谷崎はこういう男ですから…。

しかし、その後に出会った森田松子という女性との結婚生活は長続きし、最終的に彼が亡くなるまで伴侶として添い遂げました。

ちなみに、森田家における出来事をほぼそのまま描き出したのが谷崎の傑作『細雪』(青空文庫対応なので、無料で読めます!)で、こちらも面白いので興味がある方はぜひ。

※続きは次ページへ

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