小説『君たちはどう生きるか』のあらすじや感想・作者の解説!原作として漫画化され大ヒットした教養書

君たちはどう生きるか アイキャッチ 日本文学
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『君たちはどう生きるか』の感想・考察(ネタバレ有)

ここからは、本作に関する解釈や考察を含めた感想を述べていきたいと思います。

なお、記事の構成上多くのネタバレを含みますので、その点はご了承ください。

 教えを示しつつ、人間の「弱さ」にも寄り添ってくれる

多くの学びをもたらしてくれる本書の中から、あるエピソードを簡単に紹介します。

コペル君は学校で様々な出来事に遭遇しますが、その中のひとつに「いじめ」問題がありました。

単純な悪口や暴力によるものではなく、親が裕福で力を持っているクラスのグループが、貧しくて大人しいクラスメートをターゲットにし、笑いものにする陰湿なやり口。

人並みの正義感を持つコペル君はもちろん、いじめには反対です。ですが、止める勇気がなく、遠くから見守ることしかできません。

結局、勇敢な別のクラスメートが喧嘩を通していじめを止めることになるのですが、コペル君は素直に彼を尊敬するのです。

題材としては多くの人が経験していたり、身近に感じていること。

こうした問題を題材に、作者はどのような振る舞いが正しいのかということを「ノートに記された叔父さんの言葉」という形で指し示しています。

加えて、「いじめを止めたいが勇気がなくてできない」というコペル君の気持ちにもしっかり寄り添ってくれています。

こうした気持ちも、私たちの多くが大なり小なり経験していることではないでしょうか。

物語では、このように

「正しさに今一歩たどり着けないコペル君に寄り添いつつ、導いてくれる叔父さん」

という図式が成り立っています。これは、

「日々の中で理想を抱きながらも、実行ができない普通の人間である私たちに寄り添ってくれる作者」

という図式とイコールで結ばれていると感じます。

そのため、「君たちはどう生きるか」という大層なテーマにもかかわらず、私たちの心に違和感なく取り込むことができるのではないでしょうか?

コペル君が叔父さんをとても頼もしく感じているのと同じく、作者に「常に見張られている」のではなく、「私たちが必要とする時に、ふと見るとそばで見守ってくれていた」というような安心感を感じることができる。

私には、作者の温かく力強い愛情を感じずにはいられません。

80年以上も長きにわたり人々に愛されてきた本書の秘密も、そのあたりにあるのではないでしょうか。

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作者から与えられた、たった一つの宿題

コペル君は、ノートのメッセージにより多くの気づきを得ます。

が、それとは別に本作において1つだけ叔父さんからコペル君に答えの与えられていない問いがありました。

いわば叔父さんからコペル君への「人生の宿題」と言って良いかもしれません。それは、叔父さんのノートにこう書かれているものでした。

「君は、毎日の生活に必要な品物ということから考えると、たしかに消費ばかりしていて、なに一つ生産てしいない。しかし、自分では気づかないうちに、ほかの点で、ある大きなものを、日々生み出しているのだ。それは、いったい、なんだろう。

コペル君。

僕は、わざとこの問題の答えをいわないでおくから、君は、自分で一つその答を見つけて見たまえ。

(中略)

お互いに人間であるからには、誰でも、一生のうちに必ずこの答えを見つけなくてはならない、と僕は考えている。」

出典:『君たちはどう生きるか』第4章 貧しき友 おじさんのノート

叔父さんは答えをあえて言わず、コペル君に自分の頭で考えることを促しています。

そして、同時に「この質問を心に刻みつけて」時々に思い出して考えることも勧めています。

この場面は、他になく力強い書き方で表現されています。作者の心中を察するに、かなり強い思いが感じとれる場面。

叔父さんがコペル君に言っていることは、つまり作者が私たちに突きつけていることかも知れません。

作者は、いったい私たちに何をさせようとしているのでしょうか。

この答えについては、本作に触れたうえで自分なりに考えてほしいと思います。私自身、これまでにいくつか答えらしきものを思いついては「うーん、違うかな」と考えを繰り返しています。

ちょっとイジワルな問いかもしれません。

ただ、作者の残した一つの宿題を考え続けることも、本作がもつ価値の一つではないかと思っています。

まとめ

「君たちはどう生きるか」という問いを正面から見据えた本作。

目を凝らして見るには少しばかり眩しいというか、気恥ずかしくもあるテーマです。

しかし、作者の温かみと非常に練られた構成により、とても読みやすいものとなっています。

自らの生について考えるため。子どもたちに伝えるため。あるいは、とっつきにくい岩波文庫を読んでみるために選ぶのもアリです。

また、最後に紹介した、「作者からの宿題」は個人的に是非触れて欲しい部分でもあります。

「私はどう生きるか」を考えるきっかけになること請け合いの本作、まだの方は是非ご一読ください!

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