『モンテ・クリスト伯』のあらすじや感想、時代背景を解説!「巌窟王」の名で日本でも親しまれた新聞小説

モンテ・クリスト伯 アイキャッチ フランス近現代文学
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みなさん、ミステリ小説はお好きですか?

現代にはあらゆるジャンルのミステリ作品が発表されていますが、はるか昔に書かれた文学作品にも、ミステリの要素がふんだんに盛り込まれた作品が存在します。

今回ご紹介するフランス発の長編作品『モンテ・クリスト伯』もその一つ。

「長い文学を、最後まで読み通せなかった」

そんな経験から文学作品を苦手としている方も多いと思います。

加えて、物語の世界を「自分とはかけ離れたもの」だと感じている方もいるかもしれません。

しかしこの作品を読めば、そんな苦手意識や思い込みは覆されるはずです。

この記事では1ページ目にあらすじや作品情報・トリビアといった解説文を、2ページ目は書評(ネタバレ多め)を掲載しています。

記事を読んで興味を持たれた方は、ぜひ作品を手に取ってみてください!

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モンテ・クリスト伯の作品情報

作者 アレクサンドル・デュマ・ペール
執筆年 1844年~1846年
執筆国 フランス
言語 フランス語
ジャンル サスペンス・ミステリ
読解難度 読みやすい
電子書籍化
青空文庫 ×
Kindle Unlimited読み放題 △(1、2巻のみ)

作者が人気作家として活躍していた、40代のころに書き上げた作品。そのストーリー展開から、ミステリ小説のはしりとも言われています。

大長編ながら、非常に読みやすい文章と構成になっていて、ミステリ小説好きの方はもちろん、長編の文学作品には初挑戦という方にもおすすめです。

モンテ・クリスト伯の簡単なあらすじ

フランス革命の余波が残る1815年のフランス。

若き航海士エドモン・ダンテスは長きにわたる航海を終え、マルセイユの港に帰港しました。航海中に船長を亡くすという不運に見舞われましたが、船会社のオーナーより次期船長を約束されるダンテス。

愛しい恋人メルセデスとの結婚も決まり、まさに仕事もプライベートも順風満帆。未来への希望で輝いていました。

しかし、そんなダンテスを妬む2人の男が。メルセデスを恋い慕う漁師のフェルナンと、ダンテスと同じ船の会計係ダングラールです。2人は「ダンテスが国家に対する裏切り者である」という嘘の密告状をこしらえてしまいます。

密告状により逮捕されたダンテスを取り調べたのは、若き検事代理のヴィルホール。ダンテスは航海の途中、亡くなった船長の遺言でエルバ島に立ち寄り、失脚したナポレオンの側近からの手紙を預かっていました。よりによってその手紙の宛名がヴィルホールの父親だったのです。

自分の立場があやうくなることを恐れたヴィルホールは、ダンテスを助けるフリをして離島の牢獄に投獄してしまいました。

わけもわからず投獄され、一時は絶望し死も考えるダンテス。しかし囚人仲間のファリア司祭との出会いで徐々に生きる力を取り戻していきます。そして司祭と話す中で、自分を陥れたのがフェルナン、ダングラール、ヴィルホールの3人であると知り、復讐心も燃えたぎらせていくのでした。

長い年月をかけ、脱獄を計画するダンテスとファリア司祭でしたが、司祭が病のため世を去ります。その後脱獄に成功したダンテスは、司祭が遺してくれた遺産を使い、自分を陥れた3人への復讐を実行していくことになるのです。

こんな人に読んでほしい!

・長編の古典作品は読み通せない

・少年漫画的なストーリーが好きだ

・サスペンス小説やミステリ小説をよく読む

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モンテ・クリスト伯の作者や時代背景、日本での評価を解説!

ナポレオンの影が残る、1800年代初頭のフランスから始まる物語

物語はフランス革命後の激動期、1815年から始まります。前年にルイ18世がパリに帰還、皇帝だったナポレオンはエルバ島に流され、ナポレオンを支持するボナパルト派とルイ18世を擁立する王党派がにらみ合っていました。

ナポレオン 肖像画ナポレオン(出典:Wikipedia)

主人公のダンテスは政治には関心のない人間でしたが、謀略によりボナパルト派の危険人物として収監されてしまいます。島流しの身とはいえ、ナポレオンは王党派にとって最大の脅威でした。当時のそうした緊張感が物語の発端となって機能しています。

ダンテスが脱獄したのはそれから14年後の1829年。モンテ・クリスト伯となり仇敵たちの前に現れるのは、さらに9年後の1838年になります。

仇敵3人はそれぞれに出世し、ヴィルホールは検事総長に、フェルナンは軍功と財産を得て伯爵に、ダングラールは銀行家になり男爵の称号を得ていました。ヴィルホールはともかく、フェルナンとダングラールの出世はちょっと無理があるように思えますよね。

しかし革命後のフランスは出自に縛られず、「なりたい自分になれる社会」になっていました。一発逆転で大出世することも珍しくなかったのです。

作品が執筆されたのが、1844年からということもあり、近い過去であるその時代の空気感がリアルに写し取られています。歴史背景を学びながら読み進めると、より物語の世界に入り込んで楽しめるでしょう。

物語のカギを握る実在の島「モンテ・クリスト島」

ダンテスの伯爵名であり、作品のタイトルにも入っている「モンテ・クリスト」。一度耳にしたら忘れられないこの名称は、実在の島「モンテ・クリスト島」からとったものです。

モンテクリスト島 写真
モンテ・クリスト島(出典:Wikipedia)

モンテ・クリスト島は、ナポレオンが流されたエルバ島(イタリア半島から10キロほど)から、およそ40キロの位置にある無人島。作者のアレクサンドル・デュマ・ペールは1842年にこの島を訪れ、作品のインスピレーションを得たといいます。

モンテ・クリスト島以外にも、先に挙げたエルバ島をはじめ、作中には実在の島や地名が数多く登場します。読者は現実の世界と物語の世界をリンクさせ、物語をリアルに感じながら読み進めることができるのです。

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とにかく波乱万丈!著者アレクサンドル・デュマ・ペールの人生

アレクサンドル・デュマ・ペールは、1802年に生まれました。父は戦場でナポレオンと共に戦い、「黒い悪魔」と恐れられたデュマ将軍。

アレキサンダー・デュマ・ペール 写真デュマ(出典:Wikipedia)

フランス人と黒人奴隷の女性との間に生まれた父の血を引くデュマ・ペールは、縮れ毛で褐色の肌が特徴的でした。

父とは3歳のころに死別しますが、記憶の中にある父の姿に生涯憧れと尊敬を抱き続けていたといいます。軍人だった父の血が騒ぐのか、七月革命には銃をかついで参加。後年にはイタリア統一運動にまで首を突っ込み、赤シャツ千人隊を率いたガリバルディの後方支援をしています。

10代の終わりにパリに出て、20代で人気劇作家となったデュマ・ペール。30代になると新聞小説の執筆を始めます。「ポール船長」「三銃士」など立て続けにヒット作を発表。そして1844年、ジュールナル・デ・デバ紙にて『モンテ・クリスト伯』の連載をスタートさせました。

同作は単行本化もされ大ヒット。稼いだお金でモンテ・クリスト城なる私邸を建てると、パリで「歴史劇場」を建設、その運営にも乗り出します。

順風満帆に見えた人生でしたが、浪費癖と女性問題によって、若いころから金銭面での苦労が絶えませんでした。結果、1850年には裁判所から破産宣告を受けるまでになってしまいます。

しかし、借金をしてもお金は使いたい、どんなにもめても女の人が好きというのがデュマ・ペール。その姿勢は終生変わらず貫かれました。晩年にはオリジナルの料理大辞典を執筆するなど好きなことの追及にも情熱を燃やし、1870年に家族に見守られながら永眠。

波乱万丈、やりたい放題の68年の生涯を駆け抜けました。

「長くても飽きない」理由は“新聞小説”にあり!

前項で少し触れましたが、『モンテ・クリスト伯』はもともと新聞小説でした。作品は全117章からなる大長編なのですが、その長さの理由がここにあります。新聞社側からすれば、購読者を増やしてくれる人気作品は長く連載してもらいたかったことでしょう。

事実、当時の『モンテ・クリスト伯』の人気は大変なもので、朝から新聞の販売店に人が殺到した、休載日には各地で騒動になったなどのエピソードが残っています。

今は文庫本などで一気読みできるため、さすがにこの長さは飽きるのではないか、また難しくて最後まで読み通せないのではないかと、心配に思う方もいるかもしれません。

しかし、驚いたことに飽きも挫折もせずに最後まで読めてしまうのです。その理由もまた新聞小説だったから。

前述のとおり、新聞小説は購読者を増やすためのもの。毎回「つづきが読みたい」と思わせなくてはなりません。そのため各章に必ず山場を設け、かつ次の展開が気になる終わらせ方をしているのです。

また、新聞のターゲット層が大衆であったため、「わかりやすさ」も重要なポイントでした。つまり最初から誰もが理解しやすい物語として世に出ている作品なのです。

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実話をモチーフにしたストーリーがウケた?

作品のドラマチックなストーリーには、実はモデルが存在します。パリ警察古文書の中にあった「ダイヤモンドと復讐」という事件報告書が下地になっているのです。

事件が起こったのは1807年頃のパリ。とある靴屋の若者が莫大な遺産を相続した美人と婚約したのですが、それを妬んだ仲間たちが彼をイギリスのスパイとして密告してしまいます。

投獄された若者は獄中でイタリア人の司祭と知り合い、釈放後に司祭に教えられた財宝を元手に別人になりすまし、かつての仲間たちへの復讐に乗り出すのです。

実際の事件では復讐の途中で若者は返り討ちにあってしまいますが、ほぼ作品そのもの。

ちなみにダンテスの仇敵についても、モデルとなった実在の人物がいると言われています。実話や実在の人物をモチーフにしたことで物語のリアリティが増し、当時の人々の熱狂につながったのかもしれません。

日本でも広く親しまれ、映画化やゲーム化も

日本に『モンテ・クリスト伯』を紹介したのは、日本で初めて創作探偵小説を発表した作家・翻訳家の黒岩涙香(くろいわ・るいこう)でした。

黒岩涙香 写真黒岩涙香(出典:Wikipedia)

自身が創刊した新聞の購読者を増やすべく、連載小説作品として『モンテ・クリスト伯』を選んだのです。登場人物の名前を日本風に変え、タイトルを『史外史伝・巌窟王』として1901年から連載を開始。するとたちまち人気小説となりました。

1970年代には設定を江戸時代にした実写ドラマが製作され、2000年代以降も舞台や現代版のドラマが製作されています。日本の物語文化の中に深く根付いている海外作品の一つと言えるでしょう。

最近では、大人気のソシャゲFate/Grand Orderにもダンテスをはじめとする作中のキャラや設定が登場。かなり大々的に取り上げられたので、若者の知名度も高い作品です。

しかし、日本で現在発売されている完訳版は、意外なことに全7巻の岩波文庫版のみ。過去に講談社文庫版も出ていたようなのですが、残念ながら絶版となっています。

いきなり全7巻に挑戦するのはハードルが高いという方には、児童書版がおすすめ。さまざまなレーベルから出ていますので、読みやすいものを選んでみてください。

ただ、児童書版は超ダイジェスト版となっていますので、より深く作品の世界を楽しみたいという方はぜひ完訳版にも挑戦してみてください。

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