変身の解釈や考察（ネタバレ有）
ここからは、本作に関する解釈や考察を含めた感想を述べていきたいと思います。
なお、記事の構成上多くのネタバレを含みますので、その点はご了承ください。
多くが語られない分、解釈の幅が非常に広い
この作品がもつ最大の特徴は、とにかく本筋を除いた多くのことを明らかにしないため、読み手によって多様な解釈が可能なことです。
作品の流れをザックリ追うと、グレゴールが虫になって恐怖の対象となり、妹に世話されるもののやがては家族全員の敵となっていき、最後には見殺しにされるというストーリーになっています。
しかし、作中の光景はあくまで虫になったグレゴールの「考え」と「目線」によって描かれるため、彼にまつわることや家族が口に出した以外の情報はほとんど伝わってきません。
このことこそが、作品の多様な解釈に繋がっているのでしょう。
実際、本作は第二次世界大戦以降世界中に広まっていき、普遍的なテーマから各国において無数の解釈が試みられました。
その中には普遍的な解釈に挑戦したものもあれば、時代や国家によって限定された社会問題と絡めて解釈がなされることもありました。
例えば、現代の日本においては引きこもってしまうグレゴールとその家族による処遇を描いた「引きこもり文学」と解釈することも可能でしょうし、大切にされる妹とそうでない兄を描いた「家族内格差の文学」と解釈することもできるでしょう。
したがって、本作の優れている点は、読み手によって多様な解釈の幅が残されている点であると感じました。
個人的には「貴方は『虫』を愛せるか」と問いかけられている気がした
先で解釈の多様性については触れましたが、個人的にこの作品からは「貴方は『虫』を愛せますか？」と問いかけられているような気がしました。
私は「自称」非外見至上主義者を標榜しているので、外見でヒトを判断することは少ないタイプであると自負しています。
しかし、例えば私の家族や恋人、あるいは友人が「異形の姿」になってしまったとき、残念ながらそれを愛し続けられるかは断言ができないと気づかされたのです。
もちろん、この作品を読んだ方の中には「虫は好きだし、私は受け入れられるよ！」と言い切れる方もいらっしゃるかもしれません。
ただ、ここでいう「虫」は明らかに何かの比喩であり、私は「自分あるいは社会にとって受け入れがたい外見をもつモノ」と解釈しました。
それを基本に考えてみると、我々は「異形の姿」をどこまで愛することができるのでしょうか。
これを自分自身の立場から、さらに仮定として内面を愛してやまない恋人がいると仮定して考えてみます。
例えば、恋人が火傷で顔を痛めてしまったとしましょう。
私としては全く変わらぬ愛を注げる自信を有していますが、残念ながら偽らざる本音としてこの時点で愛が変質してしまう方もいらっしゃるでしょう。
では、次に自分が思う「最もブサイクな顔」に変質してしまったとします。
私はまだ辛うじて愛を注げると思われますが、それは内面を最大限愛しているという仮定があってのものです。
ルッキズムの観点からいけばこの時点で私も差別主義者の仲間入りなのですが、悲しいがな私はその程度の人間なのでしょう。
そして、最後には自分が思う「最も嫌いな生き物」に変身してしまったとします。
こうなってしまうと私にはもう愛を注ぐことが難しいでしょう。
つまり、この本を読んで感じたことは「自分もまた一種の差別主義者である」ということです。
もちろん私のような差別を全く心にも浮かべないというような「聖人」がこの世には存在するのかもしれませんが、どうやら私はそうなれそうにありません。
ただ、個人的に大切なのは「自分は油断していると他人を外見だけで差別しかねない愚かな人間である」と自覚することではないかと思うのです。
恐らく完全に外見を見ないということは難しいでしょうが、それでもなるべく差別的な思考をしないように思想をコントロールすることは叶いそうに思えます。
以上をまとめると、例えば「美人」と「ブサイク」の間にある差別構造は、「グレゴール」と「虫」の間にある差別構造と本質的には同じである、ということがいえるでしょう。
これらを踏まえた上で、あなたは「虫」が愛せますか？
まとめ
ここまで、『変身』という作品の情報をまとめ、書評を書いてきました。
私は普段なされるような解釈とあえて異なる角度から本作を評してみましたが、いかがだったでしょうか。
中編小説なのでそれほど物語も長くない上に、読みやすく自分の関心に落とし込んで多方面から解釈することができる、そんな作品です。
皆さんもに、ぜひ自分なりの形で『変身』という作品を楽しんでいただきたいと思います。
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