老人と海の感想・考察(ネタバレ有)
ここからは、本作に関する解釈や考察を含めた感想を述べていきたいと思います。
なお、記事の構成上多くのネタバレを含みますので、その点はご了承ください。
書き出しに象徴されるような簡潔で武骨な文体が素晴らしい
まず、感想を語る前にこんなことを言ってしまうのは興ざめにも思われるでしょうが、私はヘミングウェイという作家がイマイチ好きではありません。
その理由は、彼の作品に出てくるような「ボクサー」や「闘牛」といった存在や、ヒーローの出現などに代表される「アメリカ的価値観」にあまり魅力を感じられないからです。
しかし、そんな私もこの『老人と海』という作品には非常に好感を抱いています。
普段のヘミングウェイ作品とは異なり、本作は老人とカジキが三者が織り成す世界観と、彼のソリッドな文体が非常にマッチしている印象を受けることがその理由でしょう。
これを証明する例として、作品の書き出しを紹介してみましょう。
「彼は年をとっていた。メキシコ湾流に小船を浮かべ、ひとりで魚をとって日を送っていたが、一匹も釣れない日が84日間も続いた。」
この文章には、余計な装飾や比喩が何一つとして用いられていません。そこにあるのは、ただ簡潔な事実のみなのです。
通常、私はここに余計な装飾を施してくれる作品の方が好きなのですが、本作の場合は「孤独な老人が大自然に立ち向かい、そして敗れ去る」という、ある意味では無常なテーマを扱っているためか、この表現が受け入れやすかったことを記憶しています。
本作で起こった出来事をまとめると非常に単純なものになるのですが、自然に挑む漁師と人の願いをはねのける自然のせめぎあいが非常に美しく感じられました。
老人と少年の不思議な関係性は注目に値する
この物語で主役を飾っているのが老人で、次に重要な存在と考えられるのがカジキであることは明らかな一方、個人的には老人の助手をしている少年との関係性も見逃せないと思いました。
少年は両親にすら疎まれる老人を尊敬しており、彼の身の回りを絶えず気遣っています。
一方、表面上はそれに関心を示さない老人も、カジキと対峙した際には「少年がいれば…」というような発言を何度か発しているのです。
ここから、両者の関係性は非常に良好なものであり、この作品には「自然との闘い」だけでなく「世代を超えた絆」という要素も描かれていることがわかります。
孤独な老人からすれば少年の存在が大きなものになるのも道理であり、また少年が信念を貫いて海と対峙する老人を尊敬するのも然り。
多少「心優しき少年と無口な老人の関係性」のステレオタイプ的な描き方であることは否めませんが、救いのないこの作品における一種の希望として彼らの関係はクローズアップされるべきでしょう。
ラストで登場するライオンの夢は「自然への畏怖」の象徴か
カジキを釣り上げたものの、港に帰り着く頃には巨大な骨のみが残されるというどんでん返しが待っているこの作品。
骨を携えて村へと帰還した老人は、最後にライオンの夢を見て物語は幕を閉じます。
この「ライオン」という存在は、作中に何度も登場したことを覚えていらっしゃるでしょうか。
物語の始めでは少年にライオンとの記憶を語り、カジキとの死闘を経た晩にもライオンの夢を見ることを願います。
そして、最後には眠りに落ちたままライオンの夢を見るのです。
こうして物語を振り返ってみると、老人の頭の中にしか姿を見せないライオンという生物が象徴的に用いられていることが理解できるでしょう。
この生き物が意味するところは、老人がかつて感じた「自然への畏怖」の具現化であり、同時に自身が対峙した自然の「強さ」や「美しさ」を描き出しているのではないでしょうか。
カジキと戦いを繰り広げたことで、忘れかけていた自然と渡り合う心を思い出した老人。
一部では「夢を見ているから夢オチだ」と語られることもあるラストシーンですが、個人的にはこの解釈が最も適当かと思いますね。
まとめ
ここまで、ヘミングウェイの代表作『老人と海』を紹介してきました。
作品としては短めで分かりやすいので、武骨な小説がお好きな方にはおすすめです。
また、他の作品も私の好みに合わないだけで、世間での評価は高いものがあります。
こちらも、「軟弱な小説に興味はない!」という方には合いそうな気がするので、他作品にも手を伸ばしてみてはいかがでしょうか。
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