『秘密の花園』の簡潔なあらすじや感想、作品テーマを解説!生きる力の再生を描いた児童文学の名作

アメリカ近現代文学
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『秘密の花園』の感想・考察(ネタバレ有)

ここからは、本作に関する解釈や考察を含めた感想を述べていきたいと思います。

なお、記事の構成上多くのネタバレを含みますので、その点はご了承ください。

背景描写にも注目!象徴的な舞台「庭」と「ムーア」

作品の背景にある「庭」「ムーア(荒野)」は、読み手によってさまざまな解釈ができる舞台だと思います。

私は「庭=自分」「ムーア=他者・境遇」という解釈で物語を楽しみました。

「庭」はメアリやコリンにとって、自分自身と同じ。彼らは庭をじっくり観察し世話をすることで、庭本来の力を引き出して甦らせていきます。

彼らが自分を知り変わっていく姿と庭の再生がリンクしているので、物語が進むにつれ、人と庭の生きるエネルギーが高まっていくのを感じられます。

一方の「ムーア」ですが、こちらは自然の産物であり、基本的に人が思い通りにすることはできません。

そうした観点から見ると、ムーアは「境遇」や「他者」といった、変えられないものの象徴と考えることができます。

「女中のマーサ」「庭師のベン」「ミッスルスウェイト屋敷」など、メアリには当初嫌いなものがたくさんありますが、どれもメアリには変えられないものでした。

「相手を変えるのではなく理解する」ことによって、徐々に好感を持つようになるのですが、「庭」に対するアプローチとは違っているというのがおもしろいですね。

「庭」と「ムーア」が、「自分」と「他者・境遇」であると考えると、単なる背景描写の見え方も大きく変わってきます。

ちなみに、私はこの作品を読んでから、手入れの行き届いていない自宅の庭を見て考え込むようになってしまいました。

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生活の描写から見える、階級差とキャラクター設定が興味深い

この物語を読んでいて私が最もワクワクするのは、メアリたちの生活に関わる描写

生活の場であるお屋敷を中心とした物語なので、衣食住の描写が非常に多く、登場人物の生活を具体的にイメージしながら物語の世界に入っていけます。

主な舞台がイギリスということもあり、作品中の描写には、階級の違いをはっきり示すものも数多く登場します。描かれている生活環境の違いが、子どもたちの性質の違いにつながっているのが興味深いところです。

中・上流階級のメアリやコリンは、与えられ世話をさせれることが当然なので、受動的でわがままな子どもに育っています。

それに対して労働者階級のディコンは、自分のことは自分でやるのが当然で、能動的であり、信頼され自立した大人のような描かれ方です。

こうした階級の違いによるキャラクター設定は、大人のキャラクターにも表れています。なので、そのあたりに注目して読んでいくのもおもしろいでしょう。

中・上流階級の大人は、冷たくてよそよそしく、「どこか実体のない人」として描かれていますが、労働者階級の大人たちは、あたたかくて人間味があり、「頼りにできる人」として存在しているのです。

このようなキャラクター設定は、貧困からセレブまで経験した作者の実体験に基づくものかもしれません。

物語全体から感じる「自分を知ること」の大切さ

私はこの物語一番のテーマを、「自分を知ることが生きる力になる」ということだと考えています。

この物語の中核を担うメアリとコリンは、自分が大事な存在だと感じられないまま育ちました。

メアリは、自分の容姿や性格を意識したことがなく、食べることや体を動かすことにも特に関心のない子どもです。

一方のコリンは物心ついたころからずっと「自分は病気ですぐに死ぬ」と思い込んでいます。こちらは自分についての認識を間違えてしまっているパターンですね。どちらも生きる力の非常に弱い存在として登場します。

2人は、庭仕事で体を動かすようになると、食べることにも意欲的になり、生きる力を見せ始めます。また、ディコンなど他者とのコミュニケーションを通して、自分自身についても正しく理解していくようになるのです。

最初のころの2人のように、「自分を知らない」ということが、人生にどれだけ悪影響を与えるのか。この作品を読んでいて、改めて考えさせられました。

自分のことを知らないということは、自分のことを信頼できないということであり、自分で人生を歩んでいく力を持てないまま生きていくということを意味します。

物語の終盤、コリンは初めて自分の足で歩くのですが、それまで自分の足で立って歩くということをしませんでした。なぜなら自分の足が信頼できず、「怖かった」から。

実際に立ち上がり歩けるようになるのと並行して、コリンは自分の中の生きる力を信じられるようになっていきます。

まとめ

この作品は、単なる「孤独な子どもの成長物語」ではなく、すべての大人や子どもにとって、自分を振り返るきっかけをくれる物語ではないかと思っています。

子どものための「児童文学」と思い、手に取ることがなかった方にも、ぜひ読んでみてほしい作品の一つです。

※物語の人物名や固有名詞の表記は、「秘密の花園(土屋京子訳/光文社古典新訳文庫/2007年)」を参考にしました。

【参考文献】

・秘密の花園(土屋京子訳/光文社古典新訳文庫/2007年)

・秘密の花園(猪熊葉子訳/福音館書店/1979年)

・図説 イギリスの歴史(指昭博著/河出書房新社/2015年)

・図説 英国ファンタジーの世界(奥田実紀著/河出書房新社/2016年)

・図説 英国レディの世界(岩田託子・川端有子著/河出書房新社/2016年)

・図説 ヴィクトリア朝の女性と暮らし ワーキング・クラスの人びと(川端有子著/河出書房新社/2019年)

・図説 マザーグース(藤野紀男著/河出書房新社/2007年)

・物語のガーデン 子どもの本の植物誌(和田まさ子著/てらいんく/2003年)

・子どもの本と〈食〉 物語の新しい食べ方(川端有子・西村醇子編/玉川大学出版部/2007年)

【参考ウェブサイト】

・ウィキペディア内「フェミニズム」

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