『秘密の花園』の簡潔なあらすじや感想、作品テーマを解説!生きる力の再生を描いた児童文学の名作

アメリカ近現代文学
スポンサーリンク
スポンサーリンク

「あなたは自分が好き?」

真正面からそう聞かれたら、あなたはどう答えますか?

「自分のことは割と気に入ってるよ」という人もいれば、「自分のことはあまり好きになれない」という人もいるでしょう。

あるいは「そんなことは考えたこともない」という人もいるかもしれません。

いずれにせよ、この質問に少しでも心を動かされたのなら、今回ご紹介する作品『秘密の花園』をぜひ読んでみてください。

ひょっとしたら、この物語の中に「あなた」を見つけるかもしれません。

今回は、1ページ目で作品の概要やあらすじを解説、2ページ目ではネタバレありの考察をしています。

作品を手に取るきっかけにしていただければ幸いです。

スポンサーリンク

『秘密の花園』の作品情報(青空文庫・読み放題対応状況)

まず、本作に関する基本的な作品情報を整理しておきます。

作者 フランシス・ホジソン・バーネット
執筆年 1910年(出版年は1911年)
執筆国 物語の舞台:イギリス(執筆されたのはアメリカ)
言語 英語
ジャンル 児童文学
読解難度 読みやすい
電子書籍化
青空文庫 ×
Kindle Unlimited読み放題

バーネットの作家人生の後期に執筆され、彼女の幼いころからの「庭」への熱い思いが形となった作品です。

バーネット 写真バーネット(出典:Wikipedia)

古くからガーデニングの盛んなイギリスを舞台に、庭仕事を通して人生を取り戻していく少年少女の姿を描きました。

また、子どもたちの視点を中心に描かれた児童文学であり、難しい表現も少なめ。

古典を読みなれていない方にも読みやすい作品です。

さらに、本作は電子書籍として読むことも可能で、その際はAmazon発売のリーダー「Kindle」の使用をオススメします。

加えて、Amazonが提供する読み放題サービス「Kindle Unlimited」にも対応しています。

\500作以上の古典文学が読み放題!/Kindle Unlimitedを30日間無料で体験する!

『秘密の花園』の簡潔なあらすじ

英国領インドに暮らす少女メアリ。英国軍大尉の父、華やかで美しい母との間に生まれた彼女は、インド人の乳母たちに囲まれ、何不自由ない暮らしを送っていました。

しかし、父や母とのふれあいはなく、乳母たちは何でもメアリの思い通りにさせたため、メアリは本人も気づかぬうちに「黄色い顔の醜い暴君」となっていきました。

そんな中、インドでコレラが大流行し、メアリの父と母も亡くなってしまいます。

一度も会ったことのない叔父、アーチボルド・クレイヴンに引き取られることになったメアリ。

イギリス・ヨークシャーにある、ミッスルスウェイト屋敷で新たな暮らしをスタートさせます。

しかし、このお屋敷は、人の気配がほとんどなく、開かずの部屋が100近くあり、立ち入り禁止の庭もあるなど不思議なことだらけ。

屋敷の近くに広がるムーア(荒野)もメアリは好きになれません。

そんなある日、庭で出会ったコマドリに導かれたメアリは、閉ざされた秘密の庭を発見します。

荒れ果てた庭を元気にしようと、動物と話せる地元の少年ディコンや、屋敷で孤独に育った病弱な従兄弟コリンとともに、こっそり世話を始めるのでした。

一人ぼっちでわがまま放題だった少年少女は、初めての庭仕事やディコンとの出会いを通してどのように変わっていくのでしょうか。

ムーアを抱くヨークシャーの自然や庭の美しさを背景に、生きるもののたくましさを描き出す、古典児童文学の傑作です。

スポンサーリンク

こんな人に読んでほしい

・児童文学は自分には関係ないと思っている
・ガーデニングに興味がある
・「自分は一人ぼっちだ」と感じることがある

『秘密の花園』の舞台や時代背景、後世の評価を解説!

時代設定は、ガーデニングが流行していたヴィクトリア朝のイギリス

物語の年代設定について作品中では特に明言されていません。が、生活様式や史実から、イギリスヴィクトリア朝の後期からエドワード朝の初頭あたり(1900年前後)ではないかと推測されます。

ヴィクトリア朝のイギリスでは、何を隠そうガーデニングが流行しており、特に女性の園芸熱は相当なものだったよう。

「女性のためのガーデニング」などの専門誌が数多く出版され、中には子どものためのガーデニング雑誌までありました。作品中でも、メアリが叔父のクレイヴンから園芸の本を贈られ、夢中で読みふけるシーンが登場しています。

専門誌の編集者は、「庭仕事が心身の健康につながる」と話しており、当時のガーデニングは一種の健康法としても受け入れられていたようです。

そうした考え方は、作品にも色濃く反映されており、庭仕事を通してメアリやコリンに表れていく変化が大きな読みどころとなっています。

対照的な2つの舞台「インド」と「イギリス・ヨークシャー」

この物語の舞台は2つ存在します。一つはメアリが育った「インド」、もう一つが「イギリス・ヨークシャー」です。

インドは1858年~1947年までイギリスの領土でした。メアリの父は、インドに派遣された英国軍の大尉という設定。

当時のイギリスの上流階級では、子育ては乳母に任せるのが当たり前。インドの暮らしでもその風習は引き継がれていました。

父や母からの愛情を感じられない生活と、うだるような暑さが続く気候に、メアリはすっかり力を奪われていきます。

一方のヨークシャーは、ムーアと呼ばれる荒野が広がり、めまぐるしく変わる天候に振り回される、インドとはまた違った意味で厳しい土地。

ヨークシャー 写真
現代のヨークシャー(出典:wikipedia)

しかし、庭仕事をきっかけに、季節ごとの植物や動物の営みに触れ、メアリは生きる力を得ていきます。

そして、さまざまな表情を見せるムーアのことも、だんだんと好きになっていくのです。

こうした2つの舞台の違いと、メアリの変化をうまく組み合わせることで、環境が人に与える影響をより強く印象づける作品となっています。

スポンサーリンク

庭を愛した作者バーネットの「波乱万丈人生」と作品執筆の背景

作者のフランシス・ホジソン・バーネットは、1849年、イギリス・マンチェスターの中産階級の家に生まれました。3歳で父が亡くなった後、移り住んだ先で高い壁に囲まれた庭に出会います。

幼かったバーネットは、荒れ果てた庭が再生していく様子を想像し楽しんでいたそうです。

16歳で家族とともにアメリカのテネシー州に移住しますが、一家の暮らしは貧しく厳しいものでした。

バーネットは、家計の足しにするために自分が作った物語を雑誌社に売り込み、月に5~6本の仕事を抱える大衆作家として活躍するようになります。1873年には、眼科医のスワンと結婚し、2人の男の子の母親にもなりました。

その後、1877年発表の「ローリー家の娘」が批評家に高く評価され、作家として認められたバーネット。

社交界や文壇などの華やかな世界で生きることを望みますが、家庭に落ち着いてほしい夫とは、気持ちがすれ違うようになります。

そんな中でもヒット作の一つ「小公子」を発表。バーネットは名実ともに人気作家の仲間入りを果たすこととなりました。

しかし、成功の裏側で、1890年に長男ライオネルを結核で亡くすと、1898年にはとうとう夫と離婚。その後再婚しますが、2年ほどで離婚しています。

最初の離婚を機にイギリスのケント州に移ったバーネットは、メイサム館という屋敷で暮らし始めます。

グレート・メイサムホール 庭バーネットが住んだ「メイサム館」の庭(出典:Wikipedia)

屋敷の庭でのコマドリとの出会いが、幼き日の高い壁で囲まれた庭を思い起こさせ、「秘密の花園」の構想へとつながっていくのです。

1905年に「小公女」を発表すると、1908年にはアメリカに帰化。

そして1911年、バーネットが62歳のとき、「秘密の花園」が発売されました。

女性の生き方が限定されていたヴィクトリア時代に、バーネットは自らの力でアメリカでの成功をつかみ取りました。

アメリカとイギリスを自由に行き来する生活の中、いずれの地でも庭づくりを熱心に楽しんでいたといいます。子どもと庭を愛し、波乱万丈で型破りな人生を生き抜いたバーネットは、1924年に74歳でその生涯を閉じました。

作品の根底にある「マザーグース」

作品は、冒頭からヒロインであるメアリの悪評で始まります。インド人の乳母たちに甘やかされ、両親からも見放された少女は、見た目も醜い暴君として読者の前に登場するのです。

そんなメアリのキャラクター設定のもととなったと言われているのが、欧米、特にイギリスで古くから親しまれているわらべうた「マザーグース」の一つ「つむじまがりのメアリ」です。

つむじまがりのメアリ嬢
お庭はどんなあんばいで?
銀の鈴と、貝がらと
マリーゴールド並べて植えちゃった

出典:秘密の花園(土屋京子訳/光文社古典新訳文庫/2007年)p21、p173

スポンサーリンク

作中、身を寄せたインドの牧師館で、メアリはそこの子どもたちにこの唄でからかわれます。

「庭」がテーマのわらべうたに登場する「つむじまがりのメアリ」。庭が舞台となるこの物語のメアリ像は、欧米人ならだれもが知っているフレーズから誕生したのです。

欧米の作品の思想を理解するためには、「聖書」「シェイクスピア」、そして「マザーグース」を読んでおく必要があると言われています。

本作を読んで興味を持たれた方は、ぜひ「マザーグース」からチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

「新しい女性像を描いた作品」として60年代以降に再評価された

1911年にアメリカとイギリスで同時に発売された「秘密の花園」は、両国で好意的に受け入れられます。

しかし、その後だんだんと評価が下がり、やがて忘れられていきました。

1960年代以降、作品は再び注目を集め、「児童文学名作選」に選ばれたり、専門的な研究の対象になったりと、古典としての地位を確立していきます。

ちょうど1960年代から1970年代は、世界中で女性の新しい在り方についての議論が活発化した時期。そうした背景もあり、「秘密の花園」は新しい女性像を描いた作品としても見直され、特にアメリカで再評価されたのです。

そして現在では、バーネットの3大名作の一つとして演劇や映像でも親しまれ、世界中で読み継がれる古典児童文学作品となっています。

日本でも「庭」や「食」をテーマにした本で取り上げられるなど、イギリスの文化を伝えるという面でも評価の高い作品です。

※続きは次ページへ

\500作以上の古典文学が読み放題!/Kindle Unlimitedを30日間無料で体験する!

コメント