ホームズシリーズは様々な面で魅力にあふれ、あらゆる角度から研究される古典ミステリの名作です。
中でもストーリーの核となるのが、ホームズによる鮮やかな推理と危険を伴うハラハラドキドキのアクションでしょう。
そんな魅力を一気に味わえる短編が今回ご紹介する『赤毛組合』。作者コナン・ドイルも「正典の中で2番目に好きだ」と言っていたらしい作品です。
前半はあらすじとトリビアをご紹介し、後半はネタバレありで考察していきます。
読みごたえ抜群の人気短編を一緒に楽しみましょう!
赤毛組合の作品情報
作者 | アーサー・コナン・ドイル |
---|---|
執筆年 | 1891年 |
執筆国 | イギリス |
言語 | 英語 |
ジャンル | ミステリ |
読解難度 | 読みやすい |
電子書籍化 | 〇 |
青空文庫 | × |
Kindle Unlimited読み放題 | 〇 |
ホームズシリーズの人気短編作品の一つです。犯罪が絡むストーリーではありますが、残酷な描写もなく、ユーモラスな設定で読みやすいと思います。
推理もアクションも楽しめて、ホームズ作品の魅力が詰まった初心者にもおすすめの作品です。
赤毛組合の簡単なあらすじ
1890年のある日。ベイカー街を訪ねたワトスンは、ホームズとともに燃えるような赤毛をした依頼人の話を聞くことになります。
赤毛の紳士の名はジェイベズ・ウィルスン。質屋を営む彼は赤毛の男だけが入会できる「赤毛組合」の面接に見事合格し、「大英百科事典を書き写すだけで週4ポンドももらえる」という、大変割のいい副業を得ていました。
ところが仕事を始めて2カ月ほどで組合は跡形もなく消滅。関係者とも連絡がつかなくなってしまいます。彼の依頼はこの不可思議な組合の正体の解明でした。
一通り話を聞いたホームズは、この組合事件に隠された謎を推理します。一見実害のない小さな詐欺に見える事件の影には果たして何があるのでしょうか。
ホームズの推理の鮮やかさと緊張感みなぎるアクションシーンが楽しめる、シリーズ初期の人気短編です。
こんな人に読んでほしい
・ホームズの魅力が詰まった短編作品を読みたい
・推理とアクションの両方を楽しみたい
赤毛組合の主人公・ホームズやフリーメイソン、シーンの解説!
依頼人のすべてを見抜くホームズの観察力と知識
物語の冒頭ではシリーズの名物であるホームズの人間観察を楽しめます。
このエピソードでは、突然事件に引っ張り込まれる形になったワトスン。しかし、ホームズの流儀にならって依頼人を観察し始めるものの、大した情報を得られません。
その様子を見ていたホームズは、さらっと依頼人の過去や近況を言い当てて、依頼人とワトスンを驚かせます。
ホームズは服装や小物、身体的特徴などを瞬時に観察し、一瞬のうちに推理を終えてしまいます。推理の結果だけを聞くと、まるで魔法のようで、依頼人は腰を抜かすというわけです。
『緋色の研究』でワトスンと初めて会ったときにもこの技を披露していましたね。
観察力ももちろんですが、観察した情報をもとに推理をするためには膨大な知識量が必要です。ホームズは自分の推理に必要な知識については、深く研究し、論文を書いたりもしていますので、その知識の深さは並々ならぬものがあります。
観察力と知識の合わせ技である人間観察シーンは、シリーズの読みどころの一つ。
ホームズの人並外れた能力を実感できるシーンですので、ぜひ注目して読んでみてください。
ちなみにどのように推理したかを説明すると、「なんだ。そんなことか。」と言われてしまいがちなので、ホームズとしてはあまり種明かしをしたくないようです。
ジェイベズ・ウィルスンも会員の「フリーメーソン」とは?
作中の人間観察シーンにおいて、さりげなく登場する「フリーメーソン」。
フリーメイソンのロゴ(出典:Wikipedia、作:MesserWoland)
海外の小説やミステリを読まれる方には、なじみのある名称かもしれません。また、ハローバイバイの関暁夫さんが「やりすぎ都市伝説」という番組で語っているのも有名ですね。
この「フリーメーソン」とは、16世紀ごろから存在する友愛結社のこと。結社の起源や変遷については諸説ありますが、現在では主に慈善活動に関わる団体のようです。しかし、一般的には「悪の秘密結社」というイメージを抱かれがちでもあります。
実は、この「フリーメイソン」という団体名は国ごとに違っており、この言葉自体は会員個人を指すもの。世界中に様々な形態で存在し、600万人を超える会員がいるという巨大結社で、作者のコナン・ドイルも会員だったことがあります。
今回フリーメーソンであることを示すシンボルとして登場しているのが、「曲がり尺とコンパスの記章(胸飾りピン)」です。依頼人であるジェイベズ・ウィルスンもこの結社の一員のようですが、規定に背いて胸飾りピンをつけっぱなしで歩き回っているなど、少々抜けていて心配になります。
ホームズも会員だったのではないかという説もあるそうですが、このエピソードで「所属されている組織の」と距離を置いた言い方をしていることから、会員ではなかったと考えられています。
シリーズ中でもめずらしい「地下鉄」での移動シーン
事件の調査に出かけるシーンで、シリーズでもめずらしい「地下鉄」を利用するという描写が登場しています。
1863年、馬車の渋滞による混雑緩和対策の一環で、ロンドンに地下鉄が開通。
世界最初の地下鉄・メトロポリタン鉄道の建設工事(出典:Wikipedia)
ベイカー街にも当時から地下鉄の駅があったので、ホームズたちはここから乗車し、オールダーズゲート駅(現バービカン駅)に向かったものと思われます。
ホームズシリーズの移動手段といえば馬車と汽車なので、今回の地下鉄での移動はかなり貴重な描写です。ヴィクトリア朝当時の地下鉄はどんな雰囲気だったのか、憧れを掻き立てられるシーンでもあります。
現在の地下鉄ベイカー街駅の各線のプラットフォームには、ホームズ関連の装飾などが施され、観光スポットとしても有名です。
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