カフカの著作で最も有名な作品は、この『変身』に他ならないでしょう。
主人公が虫に変わってしまうことを起点とし、そこから生じた家族による彼への態度が世界中の読者に衝撃を与えました。
しかし、この作品はカフカ自身もまさかここまで後世に語り継がれるとは思っていなかったようで、それを象徴するようなエピソードがいくつか残されているという事実もあるのです。
この記事では、そうしたマメ知識から作品情報などを解説していきます。
なお、1ページ目はあらすじや作品情報・読み方などの解説文を、2ページ目は書評(ネタバレ多め)を掲載していますので、部分ごとに読んでいただいても構いません。
変身の作品紹介
まず、本作に関する基本的な作品情報を整理しておきます。
作者 | フランツ・カフカ |
---|---|
執筆年 | 1915年 |
執筆国 | オーストリア・ハンガリー帝国(現チェコ) |
言語 | ドイツ語 |
ジャンル | 中編小説 |
読解難度 | 読みやすい |
電子書籍化 | 〇 |
青空文庫 | 〇 |
Kindle Unlimited読み放題 | 〇 |
チェコ・プラハに現存するカフカの生家(出典:Wikipedia)
変身の簡単なあらすじ
一家の大黒柱として収入を稼ぎ出していた主人公のグレゴールは、ある日自分が虫になってしまっていることに気づく。
突然の出来事に戸惑う一方で、とりあえずもうひと眠りしようと身体を動かしたが、虫になっているがゆえに姿勢の転換に支障をきたした。
そこで自分の境遇について思いを巡らせていると、現状の職場に対する不満が湧き上がってきた。
仕事には飽き飽きしていたものの、彼の収入を頼りにしている家族を考えるとおちおち退職もかなわない。
そうこう考えているうちに、出張旅行へ向かう時間が過ぎてしまっていることに気づいた。
家族からはドア越しに声をかけられるが、反応した彼の声が届いている様子はない。
やむなくドアから這い出すと、その姿を目の当たりにした家族は衝撃を受けるのであった…。
こんな人に読んでほしい
・家族間でトラブルを抱えている
・「見た目と性格、どっちが大切?」という問いに関心がある
・ドイツ文学に触れてみたい
変身の執筆背景・読み方の解説
この作品は、先にも述べたように様々なトリビア・マメ知識が存在する物語でもあります。
そこで、以下では執筆背景から発表、さらに作中の虫に至るまで、そのあたりを解説していきたいと思います。
当初は笑い話として、非常に短期間で執筆された
現代では世界的文学としての名声を確立しているこの作品ですが、当初はそれほど力を入れて執筆された作品ではありませんでした。
実際、本作は他の小説を執筆する片手間に、わずか3週間程度で書き上げられたと考えられています。
これは明らかに「気合入りまくりの作品」という感じではなく、あくまで間に合わせの商業小説という意図で執筆されたのでしょう。
加えて、出版当時はそれほど高い評価を得ていなかったようです。
そもそも、カフカはこの物語を「笑い話」、つまりコメディとして制作したという説があり、この線からいくとある意味現代の評価も彼の意図していたものとは異なるのでしょう。
とはいえ、意外なほどアッサリと執筆された作品が世界的名作に昇華するのはままある話で、例えばこのサイトで取り上げたドストエフスキーの『罪と罰』あたりは借金に苦しむ傍ら、原稿料を頼みにして執筆された作品です。
そう考えると、肩ひじ張った作品ばかりが傑作になり得る、というわけではないのでしょうね。
「虫」がどのような存在を指すのかは解釈が分かれる
この作品の冒頭は非常に有名で、
「ある朝、グレゴール・ザムザがなにか気がかりな夢から目を覚ますと、自分が寝床の中で一匹の巨大な虫になっていることを発見した」
という文章から作品がスタートします。
当然ながら、ここでも示されている「虫になってしまった!」ということこそが作品全体の大きなテーマになるわけですが、具体的にどのような虫か、ということについてはあまり言及されていません。
甲羅があり、複数の足やふくらむ腹をもつことくらいしか読者には伝わらず、それゆえに「グレーゴルはどのような虫になってしまったのか」というのは古来から解釈が分かれてきました。
ちなみに、カフカは「虫」のイメージを固定化させないように、挿絵や表紙で「虫」の絵を用いないように指示したとも言われています。
出版当時の表紙(出典:Wikipedia)
つまり、ここでいう「虫」については「読者の想像にお任せします」として、あえて詳細を語らなかったのでしょう。
ちなみに、私は家族の拒否反応から「ゴキブリ」あたりを連想して作品を読んでいました。
カフカによる父へのコンプレックスが反映されている
カフカ(出典:Wikipedia)
これは本作に限ったことではないのですが、カフカは作中でしばしば勤勉・大柄で商売人気質な「父親」という存在に影響されたと思われる設定を登場させます。
本作で言えば、ステッキで父に殴打されて重傷を負うグレゴールの姿が分かりやすいでしょう。
実際、カフカという人物は内気で芸術家気質であったために、対照的な父との間に衝突を繰り返していたと言われています。
さらに、性格の違いだけでなく彼らの間には「ユダヤ人観」をめぐる考え方の相違もあったようで、富をなした父はカフカが付き合っていた知人や恋人の存在を敵視していたとも。
いずれにしても、父との対立は彼の作風に大きな影響を与えたと考えられるでしょう。
また、こう考えていくと本作のグレゴールはカフカ本人を象徴しているように思え、彼自身には「家族への軽蔑や恐れ」が内在していたのかもしれません。
家族との関係が良好であれば、自分が家族に見殺される作品は書かないでしょう。
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