三島由紀夫『仮面の告白』のあらすじや感想、読み方の解説!「女を愛せない同性愛者」を描いた問題作

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『仮面の告白』の感想・考察(ネタバレ有)

ここからは、本作に関する解釈や考察を含めた感想を述べていきたいと思います。

なお、記事の構成上多くのネタバレを含みますので、その点はご了承ください。

主人公は男色家でナルシストなのか?

この物語のキーワードは「ナルシシズム」であると思います。

作品前半部で印象的なシーン、それは中学時代に家族と訪れた海で、主人公が欲情する場面ではないでしょうか。

主人公は自分の腋毛に憧れの同級生・近江のそれを重ね合わせ、性的に興奮します。

近江と自分を同一視し、それに欲情しているわけです。それは紛れもなくナルシシズムでしょう。

またそれより数ページ前で、近江の男らしい豊かな腋毛を見た主人公はこうも独白します。

それは嫉妬だった。私がそのために近江への愛を自ら諦めたほどに強烈な嫉妬だった

自分の貧弱な腋毛(男としての未成熟さ)を自覚させられ誇りを傷つけられて愛を諦める。

主人公は、今度は自分が「近江になろう」とするわけです。

愛する対象が自分である限り、自分が傷つけられる恐れは無いから(分かりやすく言ってしまえば「ヘタレ」かも)。

先ほど、私は「胸ときめくような男同士の交流はない」と言いました。それは当然の帰結です。

なぜなら、主人公は愛する男=他者と関わることを放棄したのですから。

そこには、同性を愛する限り、その『性』として自分と相手、どちらが優れているか比べざるを得ない同性愛者の宿命の哀しさもあるように感じました。

本作は「女を愛せない同性愛者」を描いた点が特徴

私が本作を要約するならばこうなります。

本作は「男を愛する同性愛者の話」ではなく、「女を愛することに挫折した同性愛者の話」であると。

だからこそ、小説の半分以上は園子と主人公の関係性を長々と綴ったものになり、最期まで二人は理解し合わないまますれ違い続けます。

そもそも、同性愛を描いた小説自体は決して珍しいものではありません。

フォースターの『モーリス』、ジャン・ジュネの『花のノートルダム』、日本なら森茉莉の作品群。

それらは各々素晴らしい完成度を誇っていますが、やはり物語のテーマは「男の恋人との関係性」に焦点を絞ったものが多いように感じます。

つまり「男を愛する男の姿」=同性愛者を書いてきたものなんですね。

そこではそもそも女性は愛されないので、あらかじめ彼らの世界から排除されて描かれがちです。

対して、本作は「女を愛せない男」としての同性愛者の側面を描き、彼らが女性との関係性の中で抱く葛藤に焦点を当てたところが特異な点といえるでしょう。

作品タイトルの「仮面」と「告白」にみえる矛盾

この作品のタイトルは『仮面の告白』

あまりに有名な作品なので、この言葉の響きに違和感を持つことは少ないかも知れません。

けれども、よく考えれば矛盾した言葉です。

なぜなら、仮面とは「偽りの姿」、告白とは「真実を述べること」といえるから。

偽ることと、真実を述べることは両立しません。

では、三島は何を考えて矛盾したタイトルを与えたのか。作中の描写から

作中では主人公が「演技」するところが繰り返し描かれます。

中学校で自分の欲望の対象が級友たちとは違うことを自覚すると、体裁を繕うためにそんなことを思ったこともないのに、「女の肉がもつ魅力」について、いっぱしの考察を述べてみる。

つまり、彼はヘテロセクシュアル(異性愛者)としての「仮面」をつけて現実世界を生きているのです。それなくしては、現実を生きることが出来ないから。

さらに言うならば、女を持って初めて一人前と見做される昭和の青年の価値観の中で、同性愛者の主人公は「男であること」から疎外されることになります。

彼が何よりも愛し、そうありたいと願う「男」から。

事実、園子から好意を示されながら思い切って距離を詰めることの出来ない主人公は、自分についてこう考えます。

やっとこの年になって、あやめもわかぬ十九の少女との初恋に手こずっているざまだ。

(中略)

それにお前はこの年になってまだ接吻一つ知らないじゃないか。落第坊主め!

ここにあるのは、女をモノにできない自分への苛立ちと焦り。

決して園子と親密になりたいという「恋愛の欲求」ではありません。

そのため、タイトルにある「仮面」の意味とは、

「主人公にとっての枷(かせ)であり、一方で主人公の憧れる「男」の不格好なモノマネ」

ではなかったかと、私は思うのです。

まとめ

話自体はウブな青年が女性と交際しようとするも挫折、自分はやはり同性愛者だ!と自覚するというストーリーです。

しかも、主人公は美青年の瀕死の姿にときめくなかなか個性的な趣味の持ち主。

が、そのような小説が昭和初期に執筆され、さらにお堅い文壇で評価されたということも含め、非常に興味深い作品です。

そして青年の屈折した心理を書かせれば一級品の三島。

私もこの記事を執筆するにあたって読み返してみて、「こんな面白かったっけ」となりました。

ぜひ一度読んでいただければと思います。

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