『モルグ街の殺人』のあらすじや感想、内容の解説!森鴎外も訳した世界初の推理小説!

モルグ街の殺人 アイキャッチアメリカ近現代文学
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『モルグ街の殺人』の感想・考察!(ネタバレ有)

ここからは、本作に関する考察を含めた感想を述べていきたいと思います。

なお、記事の構成上ネタバレ要素が含まれていますので、未読の方はぜひ作品を読んでから続きをお読みください。

現代ミステリでは許されない?まさかの「犯人」

この作品は世界初の推理小説であると同時に、世界初のどんでん返しミステリでもあります。なにせ犯人がオランウータンなのです。この結末を初めて知った時には、想像もできなかった真相にただただ驚きました。

確かに殺害方法の残虐さなどを考えても、被害者に対して人間的な感情はなかったということであれば納得ですし、その侵入や逃走の経路についてもオランウータンなら可能かもしれません。

どこの国の人の耳にも外国語に聞こえてしまうという叫び声についても、説明がつくように思えます。

ただ、デュパンによる謎解きが始まるまで、「オランウータン」につながる情報は読者には提供されないので、個人的にはその点にアンフェアさは感じてしまいますが。

また、この作品を読んでいてしみじみ感じたのは、「先行者優位の強さ」です。

これだけミステリ小説が隆盛し成熟している現代で、「犯人は動物でした。動物は罪に問えないので無罪放免です。」というのでは読者を納得させられないでしょう。その動物が被害者に恨みを持つ真犯人によって意図的に送り込まれたのならともかく、たまたま逃げた動物がやらかしてしまうというのは、動機が何もない存在していないことになってしまいます。

また、密室殺人を扱った作品としても知られる本作ですが、オランウータンは単純に開いた窓から出入りしており、その窓も出ていくときにたまたま閉まって密室のようになったという、それだけの話だったとわかります。

名探偵の推理がいかに見事でも、動機もトリックもあったもんじゃないミステリ小説は、現代では炎上してしまいそうです。

しかし、この作品はなんといっても「世界初」。それまで誰も読んだことがないタイプの作品でした。初めて新しいことを始めるときには、前例もセオリーもありませんから、どんなことをやってもOKなわけです。

誰もやったことがないことをやるときには、思い切った発想が大事ということもこの作品から学べる点だと思います。

最先端の情報ツール「新聞」に感じる時代背景

この作品が書かれたのは1840年代。この数字を見てピンときた方もいるかもしれませんが、このころの情報ツールとして広く世間に出回っていたのは新聞でした。

アレクサンドル・デュマの「モンテ・クリスト伯」をはじめとした新聞連載小説の流行などもあり、社会階級を問わず多くの人が新聞を読んでいたのです。

『モルグ街の殺人』が、19世紀のいつ頃の話なのかは明確にされていません。が、作中では新聞が重要な情報ツールとして登場しています。

まず、デュパンたちが殺人事件の情報を得るために新聞を読んでいます。そこには事件の概要や現場に居合わせた人々の証言も詳しく記載され、それが謎の解明につながる手がかりになります。

次に新聞が重要な役割を果たすのが、デュパンがオランウータンの飼い主である船乗りを呼び出すシーン。船乗りが必ず目を通すであろう新聞に、オランウータンを保護した旨のメッセージを掲載します。

昔の新聞には個人がやり取りに使える広告欄が設けられており、そこで秘密のメッセージを送り合ったり、連絡事項を伝えたりしていたそうです。現代でいうツイッターのような使い方ですね。

ホームズシリーズでも新聞広告を利用するシーンはたびたび登場しますので、古き良きミステリ小説の情報ツールとして、なじみのある方もいるかと思います。

『モルグ街の殺人』では、当時の生活が垣間見えるような事細かな描写があまり登場しないのですが、それだけに新聞の存在感は際立っています。おそらく情報を得るにも連絡を取るにも、新聞が一番早く、人々の暮らしの中で重宝されていたのでしょう。

その時代の空気を感じ取れるという意味では、現代の読者にとっても重要なツールと言えるのではないでしょうか。

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事件の被害者に当時の世相を感じる

本作の被害者は、比較的裕福な母と娘でした。男性がいると、オランウータンに立ち向かうという展開も考えられるためなのか、被害者は女性のみという設定です。

実は作中では、かなり悲惨な死に方をしているのにも関わらず、この母娘に対する同情の念はあまり強調されていません。謎解きに主眼を置いたストーリーであるということが理由の一つでしょうが、もう一つ違った見方もできると思います。

注目したいのは、彼女たちが比較的裕福であったという点です。19世紀当時、近代化による社会構造の変化が世界中で起こっていました。

特に人口の急増した都市部では貧困層が増え、犯罪も増加していきます。物語の舞台となったパリでもそれは例外ではありませんでした。こうした点から見ても、裕福な家庭に対する同情というのが起こりにくい社会情勢だったと考えられます。

また前半で紹介した通り、ポー自身も実生活ではお金に大変苦労していました。何の理由もなく突然被害にあうのが「お金持ち」で、その謎を解き明かすのが「貧しい名探偵」という構図にも意図的なものを感じてしまいます。

さらに驚きなのが、最終的には誰も罪に問われないという決着です。

この事件の場合、明らかにうっかり逃がした飼い主に責任があると思いますが、何のおとがめもなく、オランウータンを売って大金を稼いでいます。

動物が犯人であれば殺害も意図的ではなく、自然災害にあったようなものということでしょうか。この母娘に対する容赦のなさを最後まで感じさせる結末でした。

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まとめ

凄惨な殺人事件をキャラの立った名探偵が見事に解決するという、現代まで続く推理小説の礎となった『モルグ街の殺人』。

世界中で彼に刺激を受けた作家がさまざまな名探偵を世に送り出してきました。

この作品が世に出ていなかったら、現代の私たちが楽しんでいるミステリ小説は生まれていなかったかもしれないと思うと、ポーの文才と思い切った発想力には感謝しかありません。

小説だけでなく映像作品でも、ミステリに親しんでいる方にはぜひ一度読んでいただき、ポーがミステリというジャンルに与えてきた影響の大きさを感じていただければと思います。

※物語の人物名や固有名詞の表記は、「モルグ街の殺人(巽孝之 訳/新潮文庫/2009年版)」を参考にしました。

【参考文献】

・モルグ街の殺人(巽孝之 訳/新潮文庫/2009年版)

・モルグ街の殺人(小川高義 訳/光文社古典新訳文庫/2006年版)

・ポー傑作集 江戸川乱歩名義訳(渡辺温・渡辺啓助 訳/中公文庫/2019年版)

・人と思想94 エドガー=A=ポー(佐渡谷重信 著/清水書院/2016年版)

・生誕200周年記念必携 エドガー・アラン・ポーの世紀(八木敏雄・巽孝之 編/研究社/2009年)

・有栖川有栖の密室大図鑑(有栖川有栖 文・磯田和一 画/創元推理文庫/2019年)

【参考ウェブサイト】

・ウィキペディア内「モルグ街の殺人」

・ウィキペディア内「エドガー・アラン・ポー」

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