無料のネット図書館・青空文庫はなぜ【最強】か:おすすめの利用方法や意外なデメリットを愛用者が解説

古典入門
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昨今、新型コロナの影響で各地の図書館や資料館が次々と休館に追い込まれています。

私も含め、読書好きの方は大いに頭を悩ませているのではないでしょうか。

しかし、どれだけコロナが流行しようとも「本を読みたい!」という気持ちが引っ込むわけではありません。

そんなときにマストで利用したいサービスが、全作品を完全無料で公開しているオンライン図書館「青空文庫」です。

本記事では、青空文庫の概要や利用するうえでのメリット・デメリットなどを、サービスの愛用者が解説していきたいと思います。

青空文庫は「著作権切れの作品」を集めたネット図書館

まず初めに、そもそも「青空文庫」というサービスがいったいどのようなものなのかを解説していきます。

青空文庫は、一言で言えば著作権の切れた作品(2018年までは作者の死後50年、現在は死後70年が経過した作品)を収集し、それらを電子書籍としてネットで公開するサービス。

校正や編集はすべてボランティアの方によって担われており、それゆえに完全無料で読書を楽しむことができます。無料といっても、法的に怪しいものではないのです。

開館は1997年と非常に長い歴史を有し、今では一日7000人以上のユーザーが利用するようになった「日本インターネット上最大の図書館」ともいえましょう。

蔵書数は2014年時点で実に12,400点を数え、我々もよく知る作家でいえば

・芥川竜之介…369点
・宮沢賢治…275点
太宰治…273点

というように、膨大な数が収録されています。もちろん、彼らの代表作から隠れた名作まで、ほぼ全作品が収録されているといっても過言ではありません。

恐らく、一生かかっても読み切ることはできないでしょう(年々作品数は増えていくので、今ではもっと多いハズ)

読書好きであっても、そうでなくても「本を読む」人ならば利用しない手はない、最高のサービスです。

しかしながら、青空文庫が今日を迎えるまでには相当な苦労があったと、文庫の創設者たちは語ります。

青空文庫に収蔵されている『青空文庫ものがたり』によれば、

・無償で運営し続ける上での資金的な問題

・不慣れなテレワークの苦労

・複雑な著作権法に対する解釈のミス

・「ただで本をばら撒く」姿勢に対する出版社側の警戒

といった苦労を重ねたようで、全く未知の世界であった「著作権切れ本の無料公開」を社会に定着させた功績は計り知れないものがあります。
青空文庫を利用する際は、彼らへの感謝を忘れてはなりません。

青空文庫は「Kindle Paperwhite」と併用するのがオススメ

青空文庫の利用方法は非常にカンタン。こちらからサイトにアクセスし、作家名や作品名から読みたい作品を探すだけです。

無事作品が収録されていれば、テキストファイルないしはhtmlファイルの形でダウンロードすることができ、スマホだろうがPCだろうが読むことができます。

しかしながら、ここで一つの問題が生じます。

ぶっちゃけ、以上のように王道な方法で利用すると作品がちょっと読みずらいのです。青空文庫の公式Q&Aでも取り上げられていますが、ファイルの仕様上普通に読もうとすると横書きのテキストを読まなければならなくなります。

この対策としてPC・スマホには青空文庫リーダーが色々とリリースされており、そういったフリーソフトを使えば横書きで実際の本と同じように読むこともできます。

が、私はPCで読むのは論外にしても、スマホで青空文庫を読むこともありません。その理由は

・液晶の光が強く、文字サイズが小さくなるので読んでいて疲れる

・スマホは読みながら調べものをするために空けておきたい

・スマホの充電を消費したくない

という感じ。

便利なサービスであることは間違いないものの、一工夫しないとちょっと使い勝手が悪くなってしまいます。

私はこうしたデメリットを払しょくするべく、青空文庫の本を読むときは「専用の電子書籍リーダー」を使います。

具体的に商品名を出すと、Amazon製の電子書籍リーダー「Kindle Paperwhite」

他社製の電子書籍リーダーでも問題はないのですが、以前の記事でも語ったようにこの端末は

・電子インクやフロントライトの搭載でリーダーとしての性能が高い

・KindleストアやKindle UnlimitedなどAmazonの充実したサービスと連携可能

・その割に価格が安い

という特徴があり、何かAmazonに恨みでもなければ青空文庫リーダーとしては一択かなと思っています。

青空文庫を利用するのにKindleがないのは勿体なく、Kindleを持っているのに青空文庫を利用しないのも勿体ない。

そう断言してしまってもいいほど、相互にメリットをもたらしてくれるでしょう。

青空文庫を利用する際に気をつけたいポイント3つ

青空文庫の素晴らしさは「12000点以上の作品を完全無料かつ電子書籍で読める」という点にあります。このメリットには何物にも代えがたい価値があり、私がサービスを愛してやまない大きな理由に他なりません。

しかしながら、愛用していると青空文庫が「完ぺきではない」ことに気づかされるのも事実。

「無料でやってくれてんのに文句言うなよ!」と怒られてしまいそうですが、青空文庫のヘビーユーザーが感じる「利用するうえで気をつけたいポイント」をまとめてみました。

著作権の切れていない作品は基本的に読めない

青空文庫のコンセプトである「著作権切れの作品を無料公開する」というメッセージの裏には、言うまでもなく「著作権が切れていない作品は無料公開できない」という事実が示されています。

考えてみれば当然なのですが、著作権の切れていない作品は作者や出版社が権利を有しています。なので、それを青空文庫が自由に無料で公開することは法律違反。収録されているはずもありません(一部、著作権が切れていないものの権利者の同意を得て無料公開されている作品もあります)

つまり、例えば村上春樹や大江健三郎といった「歴史に残るが、まだ亡くなっていない作家」の本は、一見読めそうですが無料では読めないのです。ここは、通常の図書館と大きく異なるポイント。

また、著作権のルールが「作者の死後50(現在は70)年」と定められている関係上、いささか不謹慎ですが「作者が長生きした作品ほど著作権の失効が遅い」というのも事実です。

例えば、言わずと知れた近代文学の名作家・太宰治は1948年に38歳で没しました。

太宰治 写真太宰治(出典:Wikipedia)

これまでは作者の死後50年が保護期間だったので、1998年には青空文庫で作品が公開されました。

一方、日本初のノーベル賞作家・川端康成は太宰よりも早く生まれましたが、亡くなったのは1972年のこと。

川端康成 写真川端康成(出典:Wikipedia)

著作権が失効するのは2042年になるので、当面は彼の作品を青空文庫で読むことができません。

太宰が1947年に書いた『斜陽』は青空文庫で読めて、川端が1926年に書いた『伊豆の踊子』は青空文庫で読めないのですから、なんだかヘンな感じがしますね。

他にも、意外なところでは武者小路実篤・平塚らいてう・三島由紀夫あたりは当面青空文庫に収録されないので、注意が必要です。

海外文学は読めないこともないが、できれば読まないほうがいい

著作権切れの作品という意味でいえば、海外文学の名作も大半は著作権切れになっています。

例えば、シェイクスピアは1614年に亡くなっているので『ロミオとジュリエット』をはじめとする彼の作品は著作権切れになっています。

しかしながら、海外文学作品の大半はそもそも青空文庫に収録されていませんし、されていたとしても読むのはやめたほうがいいと思います。

なぜなら、これらの作品は確かに「作品そのもの」は著作権切れな一方、日本語に訳す「訳本」の著作権は有効な場合が多いから。

例えば、シェイクスピアの優れた訳を数多く残した翻訳家・福田恆存は1994年まで存命でした。もはや計算するまでもなく、まだ著作権の保護期間内です。もちろん、彼の訳は青空文庫に収録されていません。

2020年現在で青空文庫の中からシェイクスピア作品を読もうとすれば、『小説神髄』などで知られる明治時代に活躍した小説家・坪内逍遥の訳本を手に取ることになります。

坪内逍遥 写真坪内逍遥(出典:Wikipedia)

彼は翻訳家でもあったので、シェイクスピアの全集を訳していたのです。

が、「よっしゃ!シェイクスピアも読めるじゃん!」と思ってしまうのは早計。確かに読めることは読めるのですが、訳が試みられたのは1933年のこと。それゆえ、現代を生きる我々にはとにかく読みづらいのです。

実際に作品の冒頭を引用してみましょう。

本譯は、舊譯「ハムレット」とほゞ同時期に成つたものであるから、文語脈が多分に取入れられてある。今度の新刊に際し、誤植、誤譯、發音の誤り等を訂正すると共に、不調和を釀さぬ限り、耳遠い古風な語を現用のそれに近づけ、晦澁の譯語を除き、時としては、小註をも加へ、成るべく一讀の下に理解し得られるやうに、と望んだのであつた。ところが、實際となつては、種々の困難を感じた。

どうです?読む気になりますか?

私は、もはや原文を読んだほうがマシなのではないかとさえ思います(坪内本人が言っているように、本作はとくに古風な言い回しが多いですが)

このように、青空文庫に収録されている訳本には「訳されたのが古すぎて、めちゃめちゃ読みずらい」というものがほとんどなのです。

註や解説、イラストなどは含まれていないと考えるべき

少し古い作品を読む時は、註や解説の存在が重要になってきます。

現代ではとっくに使われていない言い回しや固有名詞に出会ったとき、それをフォローしてくれるのが註であり解説なのです。

また、名作の場合は解釈が困難な場合も多く、文末についている訳者の解説部分は欠かせません(読んでいて単純に面白いというのもありますけど)

そのため、古典文学を文庫化する場合には必ずといっていいほど両者が備わっています。

しかしながら、青空文庫は「あくまで作者の原文をそのまま電子化する」ことに主眼を置いているため、こうした註や解説は付属しておりません

とくに、明治期に書かれた作品は註や解説がないと非常に読みずらいことが多く、正直に言ってそれらを無理矢理読むのはオススメしかねます。よく分からないまま読むくらいなら、数百円を払って充実した文庫版を購入するべき。

その場合、「註や解説が充実した初心者向けの古典文学シリーズ」としてお馴染みの「光文社古典新訳文庫」あたりの作品を買ってみるといいでしょう。

ただ、昭和に入って書かれた作品になってくると、我々の書き言葉に近い文章になってきます。なので、たとえ註や解説が無くても比較的スラスラ読み進めることができるでしょう。

分からない用語もないとはいえませんが、少しくらいならスマホでググりながら読んでいけば大抵はすぐ解決します。古文の理解度にもよりますが、自身の無い方はなるべく現代に近い作品から読み進めていきましょう。

青空文庫入門に最適!おすすめの読みやすい短編作品5選!

最後に、「この記事を読んで、青空文庫にチャレンジしてみよう!」という方のために、私が選ぶおすすめの作品を挙げておきます。

読書が苦手な方でも読めるよう、

・文体が読みやすい

・文量が少ない

・名前くらいは知っている有名どころ

に絞って、5作品ほど紹介してみます。

夏目漱石『夢十夜』

まず一作目は、夏目漱石が書いた短編『夢十夜』

本作は「十夜」の名前通り10本の超ショートストーリーから構成されている作品で、極めて読みやすいながら美しい漱石の文章を堪能することができます。

私は特に「第一夜」が大好きで、今でもときどき読み返してしまいます。

宮沢賢治『銀河鉄道の夜』

二作目は、宮沢賢治の書いた児童文学『銀河鉄道の夜』

主人公・ジョバンニが銀河鉄道に乗り込み、親友のカムパネルラと大宇宙を旅しながら数多くの不可思議な出来事を経験します。

幻想的な世界観が魅力的なのはもちろんのこと、児童文学といいながら非常に考察のし甲斐がある名作です。

森鴎外『高瀬舟』

三作目は、森鴎外の書いた時代小説『高瀬舟』

江戸時代の京都を舞台に、罪人「喜助(きすけ)」と彼を護送する役人「庄兵衛(しょうべえ)」との短くも考えさせられる会話によって物語は構成されています。

教科書でもお馴染みの作品ですが、大人になって読むとまた違った感想を抱きますよ。

芥川龍之介『蜘蛛の糸』

四作目は、芥川龍之介の書いた児童文学『蜘蛛の糸』

地獄に落ちたカンダタが、釈迦の差し出した一本の蜘蛛の糸で地獄からの脱出を図る物語です。

児童文学とはいいつつも、人間のエゴイズムを克明に描き出した芥川らしい作品になっています。

梶井基次郎『檸檬』

最後の五作目は、梶井基次郎の書いた短編小説『檸檬』

身体を病んだ主人公が「レモン」を爆弾に見立てて妄想をする、単純なようで難解なストーリーで知られています。

梶井による繊細かつ美しい情景・心理描写が魅力的な作品です。

もちろん、ここで取り上げた他にも青空文庫には魅力的な収録作品が目白押し。

当サイトでも「青空文庫対応作品」というタグをつけて書評を記しているので、気になる方はぜひ読んでみてください!

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